西陣だより

「人生会議」してみませんか

~もしものとき、自分らしく最期を迎えるために~

(この記事は2020年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科主任部長
福本 兼久


「人生会議」ってご存知ですか?

もしかすると、厚生労働省のホームページやポスターで目にしたり、病院で耳にしたりしてご存知の方もおられるかもしれません。「人生会議」とは、「人生の最終段階における医療・ケアについて繰り返し話し合うプロセス」のことで、厚生労働省が普及のために定めた愛称です。海外では、以前から、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」として取り組まれていましたが、2018年からは日本でも積極的に取り組まれるようになってきました。

具体的には、もしものときに備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援する過程のことで、本人の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標としています。

人は誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気や怪我をする可能性があります。そのような時、命の危険が迫った状態になると、約70%の方が、医療やケアなどを自分で決めたり、自分の望みを人に伝えたりすることができなくなると言われています。そこで、もしものとき、自らが希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいることを、自分自身で前もって考え、ご家族や周囲の信頼する人 たちと話し合い、共有することが大事です。

最近よく「終活」という言葉を耳にするようになりましたが、みなさんはどのようなイメージでしょうか。一般的には、お墓やお金、葬儀などの事前準備、エンディングノートの作成などでしょうか。そこに、自分の最期の時に、どんな風に過ごしたいかということを考え、大切な人と共有する「人生会議」を加えると、より現実的な「終活」ができるかもしれません。

では、どのように「人生会議」を行えばよいのでしょうか。厚生労働省のホームページにもありますが、以下のような手順で考えていくとわかりやすいです。

 

Step1 あなたの大切なこと、希望について考えてみましょう。

例えば、生きることができる時間が限られているとしたら、あなたはどんなことを大切にしますか。家族や友人と過ごす時間でしょうか。それとも、仕事を続けることでしょうか。または、自分の好きなことをすることでしょうか。個人には個人の考え方があり、それぞれが違う考えだと思います。

Step2 あなたの健康について考えてみましょう。

すでに何かの病気で病院にかかっておられる方であれば、かかりつけ医や病院の担当医に、あなたの病気について相談し、その病気で将来どうなるのかを教えてもらいましょう。もし、がんで闘病中の方であれば、治療をどのような状態になるまで続けるのか、自分らしく生活ができなくなるような治療は希望しないのか、治療はできなくなってもできるだけ苦痛は取り除いて欲しいのかなど、病状によって様々な考え方があると思います。

Step3 あなたの信頼できる人、もしものとき、代わりに意思決定をしてくれる人を選びましょう。

誰でも予期できないできごとや突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。そんな時、あなたの代わりにあなたの意思を伝えてくれる人を選んでおくことが必要です。あなた自身のことをよく理解してくれている家族や友人で、どんな状況でもあなたの希望や思いを尊重して判断してくれる人を選びましょう。ただし、法的な権利はなく、財産分与などにはかかわりません。

Step4 あなたの希望や思いを、医療・介護従事者に伝えておきましょう。

Step1~3で話し合い、決めた内容を事前に医療・介護者に伝えておくことが大事です。

あなたの望んでいる医療やケアの内容と、医療・介護従事者の考える、あなたにとって一番良いと思われる内容が食い違った時は、担当医はとても判断に迷います。そのようなことを避けるためにも、もしものときに、あなたの信頼できる家族や友人にどれくらい任せるのか、あなたの望んでいたことと、あなたの信頼できる家族や友人の考えが違う時は、どうして欲しいかも考えておくと良いでしょう。これは、あな たの希望がより尊重されるようにするためです。

 

いかがでしたでしょうか。「人生会議」が、自分の人生を自分らしく終えるために、もしものときについて話し合う機会になればと思います。人の気持ちが変わることはよくあることです。一度だけではなく、何度も信頼できる家族や友人、医療・介護従事者と話し合いましょう。あなたの希望や思いは、いつでも、何度でも訂正することはできます。

終末期という言葉は、がん患者さんに対してよく使われますが、がん患者さんだけではなく、誰にでもいつか人生の最期はやってきます。その時に、いい人生だったな、自分らしい最期を迎えられたな、と思えるように、人生の節目にご家族や近しい人と「人生会議」をしてみてはどうでしょうか。

当院では、あなたの「人生会議」のお手伝いができるように、「あなたの思いをきかせてください」という事前申出書を作成し、配布しています。入院される方やこれから治療を受けられる予定の方にお渡ししていますので、ぜひご活用ください。

2020年11月01日