西陣病院だより

手術をあきらめていませんか?安心安全確実で満足度の高い鼠経ヘルニア手術

手術をあきらめていませんか?安心安全確実で満足度の高い鼠経ヘルニア手術

(この記事は2022年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科医長
小林 博喜

 鼠径ヘルニアとは、お腹の壁に開いた孔から腸や内臓脂肪が押し出てくるために、下腹や足の付け根が膨らむ病気です。手術でしか治せない病気ですが、様々な事情により手術に不安を感じたり、ためらわれたり、手術が受けられないと思っておられる方がいらっしゃいます。

① 高齢だから、持病があるから手術が不安
② 全身麻酔が怖い
③ 血液をサラサラにするお薬を服用しているので手術は危険と言われた
④ 術後に傷痕が残るのが嫌
➄ 術後の傷の痛みが不安
⑥ 仕事が忙しくて入院できない

様々なご不安やご事情、ご要望に対応できるよう、当院では個々の患者さんごとに最適、最良な手術治療法をご提案し、できる限り満足度の高い鼠径ヘルニア治療を提供できるようにしております。

 

>>当院の特徴は大きく以下の3点です。

エキスパートによる低侵襲腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術

 当院では腹腔鏡手術の中でも傷の負担を減らした低侵襲腹腔鏡手術を行っております傷の負担を減らすには傷の数を少な < する方法と一つあたりの傷の大きさを小さくする方法があります。傷の痛みの程度は傷の数よりも傷の大きさに影響されるため、臓器を摘出する必要のないヘルニア手術においては傷を限りなく小さくすることで、術後の傷痕をわかりにくくしつつ、傷の痛みを限りなく0に近づけることが可能です。当院では5mmの傷2ヶ所(うち1カ所は臍の中)と3mmの傷1力所で手術を施行しております。

 また、腹腔鏡手術の技能、指導力を保証する唯一の資格として日本内視鏡外科学会技術認定制度がありますが、当院には京都府の病院で唯一人(2022年7月現在)の腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術の技術認定取得者が所属しておりますので、安心して腹腔鏡手術を受けていただけます

局所麻酔下手術

 各種疾患により全身麻酔を含めた手術のリスクが高い患者さんでも局所麻酔での手術であれば危険性を可能な限り排除し安全に手術を行うことが可能となります。一方で局所麻酔での手術を腰椎麻酔(下半身麻酔)や全身麻酔と同じ質で施行するためには高度な知識、技術、熟練が必要となります。当院では手術リスクの高い患者さんが多い背景から局所麻酔での手術を積極的に施行しており、腰椎麻酔や全身麻酔での手術と遜色ない手術が可能となっております。なお、局所麻酔下手術であっても術中に眠たくなるお薬(鎮静剤)を使用しながら手術を行いますので、楽に手術を受けていただくことが可能です。局所麻酔下手術の場合、条件を満たせば日帰りでの手術も可能ですので、お仕事がお忙しい患者さんのご要望にもお応えできます。

抗血栓薬継続下で手術

 各種疾患により血液をサラサラにするお薬(抗血栓薬)を内服しておられる患者さんが増えています。抗血栓薬を服用したままの手術は出血しやすいため、通常は手術に際し休薬が必要となったり、休薬のリスクが高い場合は手術不可能と判断されたりします。当院では抗血栓薬の種類ごとに最適な術式を選択した上で、確かな技術で手術を行い、術後の出血予防策を講じるといった工夫をすることで、抗血栓薬を休薬することなく安全に手術を行うことができています。

 

手術に不安を感じたり、ためらわれたり、自分は手術が受けられないと思っておられる方はぜひ一度当院へご相談にいらしてください

2022年09月01日

転倒して痛い時は迷わず整形外科へ

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医員
中村 恵



 日本は超高齢化社会となり、転倒し整形外科を受診される方が増えています。骨折は場合によっては生活レベルを大きく落とす可能性があり、適切な治療が必要です。今回は生活レベル、骨折の診断および治療の流れについて簡単に説明させていただきます。

 

 2020年の日本人の平均寿命は男性が 81.64歳、女性が87.74歳と年々更新しており、超高齢化社会となっている現状です。平均寿命が伸び続けている中で重要であるのが日常生活動作( Activities of Daily Living 以下ADL)です。ADLには基本的日常生活動作( basic ADL: BADL)と手段的日常生活動作( instrumental ADL : IADL )があり、特にBADLは日常生活における基本的な着替え、食事、トイレ、移動、風呂・整容といった動作のことを指し、生活レベルに大きく関わってきます。整形外科的にADLの低下の主な原因として骨折があります。超高齢化社会による骨粗しょう症の増加、また筋力低下による転倒などの外傷の増加により骨折は高齢者でよくみられる疾患となっています。人の体には約200本の骨があり、骨折をすると身体的な機能の低下につながり、ADLの低下につながります。骨折は骨折部位、骨折の形状、年齢、性別、生活背景により治療方針が異なり、その患者様に適した治療が必要です。骨折の診断の流れとしては、まずは問診、痛い部位の診察、それに応じた単純レントゲン検査をメインとした画像検査を施行致します。明らかな骨折があった場合は、それに応じて必要であればCT・MRI検査などのさらに詳しい検査を施行致します。単純レントゲンではわからない骨折もあるため、痛みや腫れが強く疑わしい場合は同様にさらなる精査を行います。検査が終わると、治療方針を決定します。骨折の治療には手術による治療、手術をしない保存療法に大きく分けることができ、手術が望ましい場合はそれに向けた準備を、保存療法が望ましい場合は三角巾、ギプス・コルセットなどを装着し定期的に外来でフォロー致します。 手術を選択する理由としては、転位(ずれ)が大きく骨が癒合せず疼痛が持続する可能性が高い寝たきりにならないよう早期離床および歩行訓練が望ましいもの(大腿骨の骨折など、③痛みを軽減するため、などが挙げられます。

 ただ、私たちが簡単に手術といっても、患者様の立場からすると手術は非常に怖いものであることが多く、しっかりと患者様の立場にたってご理解いただけるような説明をすることを心掛けております。骨折は診断が遅れると治療が困難になることもあり、ADLの低下を避けるためにも早期診断、早期治療が望ましいです。ですので、怪我をして痛い、腫れていることがあれば迷わず整形外科を受診してください。そして日常生活レベルを落とさないよう一緒に治療していきましょう。

 

 

 

 

2022年07月01日

高齢者の糖尿病短期入院について

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病内科 部長
矢野 美保


  糖尿病の方は、経過や糖尿病の状態により、合併症や併発症を認めることが多いとされています。普段から自分の状態を知ることも大切ですね。当院では、65歳以上の方を対象に高齢者特有の合併症も含めて評価する短期入院を行っていますのでぜひ御利用ください。糖尿病の治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命と生活の質の実現を目指すことと言われています。糖尿病があると、ない方に比べて、網膜症・腎症・神経症・動脈硬化などの合併症以外にも併発症としての骨粗鬆症・認知症なども多いと報告されています。一方で、治療の進歩に伴って、以前より糖尿病の合併症の発症が抑制されているとの報告もあります。日常から自分の合併症の状態を確認できればよいですね。西陣病院では、2週間の糖尿病教育入院以外に65歳以上の方を対象とした短期(2泊3日)の合併症評価の入院を行っています。

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは骨の量(骨量)の減少や骨の性質(骨質)の悪化により、骨が弱くなり骨折しやすくなる病気です。糖尿病では骨密度だけでなく、骨質が悪化していると言われています。当院ではDXA(デキサ)法というX線を用いる方法で、骨密度だけではなく骨質も評価出来ます。

サルコペニア

サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指します。糖尿病ではサルコペニアになりやすく、サルコペニアでは糖尿病も悪化しやすいと言われています。体組成の検査で筋肉量を測定し、握力や歩行速度の計測で評価出来ます。

認知症

糖尿病ではアルツハイマー型認知症や脳血管型認知症になりやすいと報告されています。アルツハイマー型認知症は大脳の表面と海馬(記憶をつかさどる部位 )の萎縮を認めます。脳病変の有無はMRI、脳の血管の状態はMRA、海馬の萎縮はVSRAD(ブイエスラド)という検査方法で評価出来ます。

高齢者の短期入院で行う項目

● 一般検査(血液・尿検査・胸部X線・心電図)
● 骨密度
● 頭部MRI・MRA・VSRAD
● 頸動脈エコー・心エコー・ABI(動脈硬化・心臓の機能の評価)
● 腹部CT(膵臓や肝臓などの評価)
● InBody(インピーダンス法による筋肉量や体脂肪等の体組成の測定)
● 看護師による認知機能の簡易評価・嚥下機能 の確認
● 薬剤師による服薬確認・指導
● 管理栄養士による食事内容確認・簡易型自記式・食事歴法質問票(BDHQ)による食習慣の分析や、その改善に向けた具体的なアドバイス
● 理学療法士による筋力などの評価

※短期入院のため、血糖調節は行いません。

入院の結果をふまえて、なにか治療が必要な場合は退院後、主治医による処方の追加や必要時他科に相談して治療法を考えます。ぜひ、短期入院を活用してみて下さい。御希望の方は糖尿病内科にお問い合わせ下さい。

2022年07月01日

最先端の内視鏡システムを導入しました

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科部長
消化器内視鏡センター長
稲垣 恭和

消化器内視鏡センターでは 2022年1月より内視鏡システムを全てオリンパス社製の最上位機種であるEVIS X1に更新し、最新のスコープも導入致しました。EVIS X1は世界初の5LED 光源を搭載しており、EDOF(Extended Depth of Field:被写界深度拡大)などの最新観察技術により、より明るく鮮明な画質での内視鏡観察が可能となっております。また、オリンパス社独自の NBI/RDI/TXI などの特殊光観察技術により、通常では発見できない微細病変の発見や、より安全で確実な内視鏡治療が可能となりました。当センターでは今後もチーム一丸となってより良質な医療を提供させて頂けるよう努力してまいります。

 

                             

2022年05月01日

尿路結石について

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
岩本 鴻太朗



 

疫学

日本人では上部尿路結石が95%以上を占めます。50年前と比べると罹患率は3.2倍に増えています。男性の6.5人に1人、女性の13.2人に1人が罹るとされ男性に多い疾患ですが、直近10年で女性の増加は顕著です。好発年齢は男性50代、女性60代です。

成分

結石成分は、男女ともカルシウム結石が約90%を占めます。男性は尿酸結石、女性は感染結石が続きます。

症状

結石は存在するだけでは特に症状を認めず、尿管に詰まることで激しい片側性の疼痛を引き起こすのが特徴的です。尿の流れがせき止められ腎臓が腫大した水腎症の状態になることが痛みの原因です。痛みとともに吐き気や嘔吐を起こすこともあります。また血尿もしばしばみられます。結石の位置によっては頻尿や排尿時痛、排尿困難感などの症状を伴うこともあります。

検査

尿路結石の診断にはまずは尿検査や超音波検査、レントゲン検査などの低侵襲な検査を行います。超音波検査では水腎症の確認ができます。レントゲン検査でほとんどの結石は確認できますが一部の結石は確認できないことがあります。CT検査ではすべての結石が確認でき、また急な疼痛を来す結石以外の疾患の検索にも有用です。

治療

1㎝未満の結石は自然排石が期待できます。1日2L程度の水分摂取を推奨し、必要に応じて内服薬の処方をします。1ヶ月以上排石しない場合や1㎝以上の結石の場合には積極的治療を検討します。以下に挙げた治療が主に行われますが結石があまりにも大きい場合には経皮的結石破砕術(PNL)や腹腔鏡下切石術が行われる場合もあります。いずれの治療もメリット・デメリットがあり、患者さんの背景や適応を十分に考えたうえで治療法を相談いたします。

体外衝撃波結石破砕術(ESWL
レントゲンで結石を確認しながら、体外で発生させた衝撃波を照射し結石を破砕する治療です。1回の治療は約1時間です。当院では日帰りで施行でき、基本的に大きな合併症は少なく患者さんへ
の負担が少ない治療となっています。レントゲンに写らない結石には施行できず、また結石によっては複数回の治療を必要とする可能性もあります。

■ 経尿道的結石破砕術(TUL
尿道から細い内視鏡を挿入し結石を直接見ながらレーザーで破砕します。入院で全身麻酔もしくは腰椎麻酔をかけて行い、入院期間は4~5日ほどです。破砕効果はESWLよりも大きいとされます。一方で尿管の損傷や術後の感染症などの合併症が発生する可能性があります。当院ではレーザーとしてQuanta Litho Evoという最新の機械を導入し治療を行っております。

再発予防

約半数が再発すると言われております。再発予防の基本は水分摂取であり、1日2L以上の水分摂取が必要とされています。最も頻度の高いシュウ酸カルシウム結石では、シュウ酸を多く含むタケノコやほうれん草、紅茶などの摂取を抑えることが推奨されます。またシュウ酸はカルシウムと同時に摂取するとシュウ酸の体内への吸収が抑制されます。

まとめ

尿路結石の患者さんは今後も増加が予想されます。再発予防と適切な治療の選択が重要です。気になる方は一度腎臓・泌尿器科を受診してください。

2022年05月01日

心不全について

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 主任部長
中森 診


 
 
 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。心不全の原因は狭心症や心筋梗塞のほか、心臓の筋肉に障害が起こる心筋症、心臓の弁に障害のある心臓弁膜症などですが、高血圧の人は心臓肥大を生じて心不全になりやすいと言われています。日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では、心不全にA~Dの4つのステージが定められています。

 

心不全について

ステージA
心不全の危険因子を抱えている段階で、糖尿病や高血圧など心不全悪化の原因になる危険因子を抱えているものの、心臓の働きは正常で心不全症状もありません。

ステージB 
心臓の働き異常(心臓肥大、心拍出量低下)などが出てきた段階で、心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、不整脈などを発症していますが、まだこの段階では心不全症状はありません。

ステージC
心臓の働きの異常により、息切れ、むくみ、疲れやすさなどの症状が現れた時で、心臓の働きの異常に応じて治療薬が異なります。

ステージD
心不全が進行して治療が難しくなった段階です。

 心不全の症状には、収縮機能(血液を送り出す機能)が低下して十分な血液を送り出せないことから起こる症状と、拡張機能(全身の血液が心臓に戻る機能)が低下して血液がうっ滞することによって起こる症状があります。ポンプ機能低下による症状は、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞による症状は、息切れ、呼吸困難、むくみなどがあります。心不全には、急性心筋梗塞などにより急激に心臓の働きが悪くなり、命の危機にさらされることもある「急性心不全」と、徐々に進行して心不全の状態がずっと続く「慢性心不全」があり、慢性心不全は急に悪くなって急性心不全となることもあり、入院のたびに全身状態が悪化していきます。
 最初のうちは、階段や坂道などを登ったときにだけ息が切れる程度ですが、進行すると少し身体を動かすだけでも息苦しくなります。さらに悪化すると、じっとしていても症状が出るようになり、夜中に寝ている時でも咳や息苦しさで寝られなくなります。最近、収縮機能が正常の心不全(拡張不全)が多いことがわかってきました。静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、有効な治療法が限られます。また、高齢者では自覚症状が現れにくく、息切れがあっても、「歳だから仕方がない」などと見過ごし易いため、放置したまま悪化してしまい、夜中に呼吸困難を起こして救急搬入される患者さんも少なくありません。

 息切れや動悸は、狭心症や不整脈など、ほかの心臓の病気が隠れていることもありますので、今までできていた動作ができなくなった、急に体重が増えた、動悸や息切れを感じるときには、心不全の可能性がありますので早めにかかりつけ医に相談して下さい

2022年03月01日

高齢者の大腸がん外科治療について

高齢者の大腸がん外科治療について

(この記事は2021年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科部長
高木 剛


全国がん登録罹患データによる2018年のがん罹患総数の順位は、1位は大腸がんでした(性別では男性は3位、女性は2位)。がん死亡数の順位(2019年)では、男女計の2位が大腸がんでした(男性は3位、女性は1位)。また、2021年 7月の厚生労働省の発表によりますと、昨年の日本人の平均寿命は女性が 87.74歳、男性が81.64歳で、ともに過去最高を更新しました。そういった背景もあり、大腸がんに罹患し受診される方も、年齢も高くなっている印象があります。如何に大腸がんの死亡数を減少させるかとなると、早期に発見し治療することが重要となります。早期に下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)で発見できれば内視鏡(大腸カメラ)で切除できる場合があります。

 

ここでは、内視鏡(大腸カメラ)での切除が適応外になった場合の外科治療つまり手術についてと、高齢者の手術についてお話いたします。

大腸がん手術の方法は、開腹手術、そして腹腔鏡(おしりから腸の中にいれる大腸カメラではなく、腹壁を少し切開しておなかの中に挿入する内視鏡)を用いた腹腔鏡下手術。また最近ではロボットを利用した腹腔鏡でのロボット支援手術といった方法があります。当科では、ほとんどの場合は腹腔鏡手術を行っております。腫瘍の部位(盲腸や上行結腸など)によっては単孔式腹腔鏡手術という3cmほどの切開のみで行う手術も行っています。ただし、腫瘍の大きさや浸潤の程度によっては開腹する場合もあります。

以前(10年20年前)は85歳以上で大腸がんに罹患し受診されると、手術は難しいと言われていたこともありました。しかし、現在の高齢者においては10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の出現が5~10年遅延しており、「若返り」現象がみられると言われています。皆さんも感じておられる様に、特に65~74歳の前期高齢者においては、心身の健康が保たれ活発な社会活動が可能な人が大多数です。そこで、当院では80代 90代はもとより100歳になっても手術が必要と判断した場合は、手術前に適応可否判断を行います。

① 全身麻酔に耐えるか?
② 栄養状態は?
③ 日常生活自立度(ADL)・運動機能はどの程度か?
④ 認知機能・気分・情緒はどの程度か?
などを評価して、それにより手術の可否決定や手術方法を選択します。

たとえば、85歳以上でも手術が可能と判断し評価した後に、先述の盲腸や上行結腸がんによる単孔式腹腔鏡手術を行った場合ですが、2021年 9月まで14人(男性/3、女性/11)、平均年齢:90.4(85~104)歳、手術後の在院日数中央値:11.5 ( 7~19 )日、手術中の出血量中央値:5 (少量~34)ml、手術時間中央値:155.5 (116~196) 分でした。

そして、手術直後は勿論痛みが有りますので鎮痛剤を使用して痛みのコントロールを行いつつ、身体の機能低下を防ぐために手術の翌日からはリハビリを導入することで入院時と同じくらいの状態で早期に退院ができるように図っています。

「高齢」だから手術ができないとか治らないということは無いのです。「高齢者のがん」だからという理由で決してあきらめる必要はないのです!

2021年11月01日

シミのレーザー治療について

(この記事は2021年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

皮膚科部長
坂元 花景


 
人生いろいろ、シミもいろいろ、治療だっていろいろ。誰もが気になるシミですが、種類は複数あり、混在していることもよくあります。治療法も複数ありますが、シミの種類によって最適の方法が異なります。今回は、当院で行っているレーザー照射によるシミの治療についてご説明させていただきます。

シミのレーザー治療について

一口にシミと言っても、種類はさまざま。20代までのシミは、雀卵斑(そばかす)やADM(後天性真皮メラノサイトーシス)が多いですが、30歳代で多いのは肝斑、50歳以降では脂漏性角化症(老人性色素班)が多くなります。それ以外にも、炎症後色素沈着やあざ(太田母斑、異所性蒙古斑)などもシミと呼ばれることもあり、これらが混ざっていることも珍しくありません。

シミの治療には、薬の外用や内服、レーザー照射や手術など、さまざまな方法があり、健康保険の適用があるものとないものがあります。その中にレーザーを用いた治療がありますが、レーザーにもさまざまな機種があります。当院にあるレーザーは、Qスイッチルビーレーザーという、メラニン色素への吸収率がとても高い機種です。瞬間的に高いパワーのレーザー光を発して、皮膚のメラニン色素を破壊します。基本的に保険適用外にはなりますが、今までも自費診療で多くの方に治療を受けていただいております。

レーザーは比較的皮膚に負担をかける治療なため、そのダメージを患者様自身がしっかりと理解し、適切なアフターケアをすることが最も大切です。治療前も治療後も紫外線対策をしっかりと行い、患部は治療後は肌色の保護テープを貼ったままで、約2週間程度過ごしていただく必要があります。

レーザー照射時にはパチンと輪ゴムで軽くはじかれた程度の痛みがあり、照射した皮膚は白くなります。患部が赤く腫れたり、水疱ができることもあります。その後かさぶたとなり、平均7~10日間でかさぶたが剥がれます。かさぶたの下にはピンク色の新しい薄い皮膚が完成しており、3カ月程度で周囲の皮膚となじみます。この時、炎症後色素沈着(戻りしみ)が起こることがありますが、半年~1年程度で自然に薄くなります。治療後半年くらいは、皮膚が完全な状態ではないため、日焼けしたり、強く擦ったりすることのないよう、十分に注意をしてください。一般的なシミの場合、ほとんどの症例で1~2回の照射でかなり目立たなくなりますが、同じ部位に再発することも残念ながらあります。

前述のように、シミの種類によって最適の治療方法が異なります。お持ちの疾患や、シミの種類や場所によっては治療ができないことがありますので、治療をご希望の方は、月火木金の午前中の皮膚科外来をまず受診の上、医師にご相談ください。料金はシミの大きさで決まります。治療は基本的に木曜午後の予約診療で行っております。詳細については別途お問い合わせください。

< 照射前 >

  

< 照射10ヶ月後 >

 

2021年09月01日

糖尿病網膜症について

(この記事は2021年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院、眼科部長  中司 美奈

眼科部長
中司 美奈


 
 糖尿病に合併する眼疾患は、糖尿病網膜症のほかにも、角膜障害、虹彩炎、白内障、外眼筋麻痺、視神経症など多彩です。ここでは、失明原因にもなる糖尿病網膜症について説明したいと思います。糖尿病の患者さんの4~5人に1人が糖尿病網膜症を有すると言われています。糖尿病罹病期間が長いほど、糖尿病網膜症の有病率と重症度はともに上昇し、糖尿病網膜症発症年齢が若いほうが糖尿病網膜症は重症化しやすいと言われています。高血圧、脂質異常症、妊娠、喫煙などは糖尿病網膜症のリスク因子であり、内科・婦人科などそれぞれの専門診療科と眼科とで綿密に連携して経過観察することが大切です。

糖尿病網膜症とは?

 糖尿病網膜症の病期には様々な分類の仕方がありますが、大きく分類すると網膜症を認めない時期、非増殖期、増殖期と進行します。増殖とはどういうことでしょうか?糖尿病は全身の血管が脆くなり、血液や浸出液が漏出したり、血管閉塞による虚血を生じます。放置しておくと網膜の虚血部位に新生血管が増殖します。この新生血管から硝子体出血が生じたり、増殖膜による網膜剥離を引き起こすことで急激に視力が低下します。また、新生血管が隅角や虹彩に生じると眼圧が高くなり、血管新生緑内障という難治な緑内障に進行します。視力が低下する前の適切な時期にフルオレセイン蛍光眼底造影検査を行い(図1)、必要であれば、レーザーで治療(レーザー網膜光凝固術)することが非常に重要です。硝子体出血や網膜剥離を生じると硝子体手術が必要になることが多く、血管新生緑内障を生じると薬物治療だけでは眼圧が下降しないことが多く、緑内障手術を要しますが、視力予後は不良です。
 また、糖尿病黄斑浮腫(図2)は、黄斑に水が溜まり直接視力に影響します。糖尿病網膜症の早期から晩期までどの病期においても発症する可能性があります。近年、抗血管内皮増殖因子(vascularendothelial growth factor:VEGF)療法が主流となり、視力が低下すれば抗VEGF薬を硝子体内に注射します。

眼科を受診するタイミングは?

 糖尿病の患者さんが初診で眼科を受診する際には、視力障害の自覚がなく、内科医からの紹介などにより検診目的に受診する場合と、自覚症状を伴って受診する場合とに大きく分かれます。糖尿病網膜症はかなり進行しても自覚症状がほとんどない場合があるため、自覚症状の有無にかかわらず、眼科で検診を受ける必要があります。急激な視力低下や視野狭窄を自覚し、眼科を受診したときにはすでに増殖期に入っていて、硝子体出血や牽引性網膜剝離が発症している場合もあります。視力低下を来してから治療を始めても、十分に視力が回復しないこともあり、初期の段階から経過観察することがいかに重要であるかを知っておいてください。受診時は眼底検査を行いますので、しばらく眼のピントが合わなくなります。車やバイクの運転は控えるようにしましょう。
 糖尿病網膜症は適切な経過観察、治療を行えば失明を避けることができる疾患です。糖尿病と診断された時点で直ちに眼科を受診し、症状がなくても定期的に診察を受けましょう。

2021年07月01日

転倒して股関節が痛ければ(整形外科より)

(この記事は2021年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医員
岩井 義之



 
 日本は近年超高齢社会となってきました。転倒し病院受診をされる方が多くいらっしゃいます。転倒して生じうる骨折としては統計的に①大腿骨近位部②脊椎③手関節が多いとされています。今回はその中でも①大腿骨近位部の骨折についてご説明させていただきます。
 大腿骨は近位部、骨幹部、遠位部の 3 つに分かれます。今回お話する近位部は、体に近い股関節周囲を指します。骨盤にはまり込む丸い部分を骨頭、細くなっている頸部、ふくらみのある転子部、となっています。高齢者の転倒で生じる骨折は大腿骨頸部/転子部骨折が多いとされています。

 

 日本の老年人口は 2020 年には 3,590 万人、2030年には3,667万人、ピークに達する2042年には 3,863 万人になると推計されています。したがって2020年には約25万人、2030年には約30万人、2042年には約32万人の大腿骨頸部/転子部骨折が発生するとされ、日常的に多い骨折となっています。骨折が生じた際は痛みで歩けなくなる方が多いです。レントゲンで判明することが多いですが、不顕性骨折といって転位がない骨折で、レントゲンでは判明せず、MRIなどの精密検査で診断がつくこともあります。その場合は痛いながらも歩けることもあります。不顕性骨折は後々転位することも多く、手術加療となる場合があるため、早期発見が大切です。

 一般的にどの骨折も治療は大きく分けて2つです。手術か、ギプスなどの保存加療です。治療法は部位や折れ方によって変わります。大腿骨は歩行に大きく関与し、歩行できる方については積極的な手術加療を勧めています。保存加療では、痛みで寝たきりとなり、筋力低下し、歩行能力が見込めないことがよくあります。リハビリを行えば立位動作が可能となる方もいらっしゃいます。寝たきりや車いすでの生活が主な方は保存加療を選択される場合もあります。
 転倒後無理して生活され、骨折部が大きくずれることでより難しい手術になることがあります。先ほどの不顕性骨折のこともあわせ早期発見が大切です。転倒し、股関節部の痛みが強い場合は無理なさらず、早期の病院受診をお願いします。 患者さん一人一人に合わせた最適な加療ができるよう、日々研鑽を積んでおります。転倒し困った方がいらっしゃれば、お気軽に当院にご相談ください。

2021年05月01日