西陣だより

「前立腺肥大症に対する」ツリウムレーザー 前立腺蒸散術(ThuVAP)

(この記事は2023年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

副院長 腎臓・泌尿器科
今田 直樹



 

 2020-2022年、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が医療界に多大な影響を及ぼしました。特に良性疾患の手術に対しては抑制的な方向であったと思います。2019 年に認可を受けた前立腺肥大症の新しい治療レーザー機 Quanta Cyber TMを同年7月に日本第 3号機として導入いたしました。さあこれからという時にコロナ禍に巻き込まれました。

 

 ThuVAPは2017年のヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでは既に推奨グレードAと認められている治療法で、2017年日本泌尿器科ガイドラインでもBに認められています。次回の改定では恐らくA評価になると思われます。日本においてもホルミウムレーザー(A評価)、グリーンライトレーザー(A評価)、半導体レーザー(C1評価)に次いで徐々に増加しています。Quanta Cyber TMは2022 年末までに日本で 34 施設に、一昨年には東京慈恵会医科大学病院、昨年には東京医科歯科大学病院に導入され、高度医療施設にも評価されつつあります。

 さて、前立腺は外腺と内腺で構成されており、前立腺肥大症とは内腺が肥大することです。ミカンを想像してください。外腺は皮の部分で、肥大した内腺が実の部分です。正常な前立腺はスダチぐらいの大きさでしょうか。尿道がその真ん中を縦に貫通していて、肥大症になれば尿道が圧迫され排尿困難などの症状が出現するのです。前立腺肥大症の手術の目的は肥大した内腺を取り除くことです。開腹手術では、皮を切って実を丸ごと取り出すイメージです。夏ミカンぐらいに成長した肥大症が適応です。多くは通常の経尿道的前立腺手術で対応できます。尿道から切除鏡を挿入し、電気メスで少しずつ切除していきます(上右図)。この手術もとても良い手術ですが、近年、前立腺手術に電気メスに代わってレーザーを使って蒸散治療する方法が普及しつつあります。

 前立腺のレーザー治療の特徴は、術中および術後の出血リスクが非常に低く、抗血栓療法中の方(血液サラサラ薬内服中の方)にも行なうことが可能で、術後の痛みが少なく、回復も早く、術後の尿道カテーテルの留置期間も短くて早期退院が可能となります。

 当院が導入したツリウムレーザー(下写真)の特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちることなく一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザービームの組織への深達度は 0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また他のレーザーと比較して最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応範囲の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。
内服治療だけでは十分に症状が改善しない方、内服継続をしたくない方、手術を受けたいが入院期間の問題で手術をためらっている方には非常に適している治療法ではないでしょうか。いつでもお気軽にご相談下さい。

2023年03月01日