西陣病院だより

高齢者の大腸がん外科治療について

高齢者の大腸がん外科治療について

(この記事は2021年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科部長
高木 剛


全国がん登録罹患データによる2018年のがん罹患総数の順位は、1位は大腸がんでした(性別では男性は3位、女性は2位)。がん死亡数の順位(2019年)では、男女計の2位が大腸がんでした(男性は3位、女性は1位)。また、2021年 7月の厚生労働省の発表によりますと、昨年の日本人の平均寿命は女性が 87.74歳、男性が81.64歳で、ともに過去最高を更新しました。そういった背景もあり、大腸がんに罹患し受診される方も、年齢も高くなっている印象があります。如何に大腸がんの死亡数を減少させるかとなると、早期に発見し治療することが重要となります。早期に下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)で発見できれば内視鏡(大腸カメラ)で切除できる場合があります。

 

ここでは、内視鏡(大腸カメラ)での切除が適応外になった場合の外科治療つまり手術についてと、高齢者の手術についてお話いたします。

大腸がん手術の方法は、開腹手術、そして腹腔鏡(おしりから腸の中にいれる大腸カメラではなく、腹壁を少し切開しておなかの中に挿入する内視鏡)を用いた腹腔鏡下手術。また最近ではロボットを利用した腹腔鏡でのロボット支援手術といった方法があります。当科では、ほとんどの場合は腹腔鏡手術を行っております。腫瘍の部位(盲腸や上行結腸など)によっては単孔式腹腔鏡手術という3cmほどの切開のみで行う手術も行っています。ただし、腫瘍の大きさや浸潤の程度によっては開腹する場合もあります。

以前(10年20年前)は85歳以上で大腸がんに罹患し受診されると、手術は難しいと言われていたこともありました。しかし、現在の高齢者においては10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の出現が5~10年遅延しており、「若返り」現象がみられると言われています。皆さんも感じておられる様に、特に65~74歳の前期高齢者においては、心身の健康が保たれ活発な社会活動が可能な人が大多数です。そこで、当院では80代 90代はもとより100歳になっても手術が必要と判断した場合は、手術前に適応可否判断を行います。

① 全身麻酔に耐えるか?
② 栄養状態は?
③ 日常生活自立度(ADL)・運動機能はどの程度か?
④ 認知機能・気分・情緒はどの程度か?
などを評価して、それにより手術の可否決定や手術方法を選択します。

たとえば、85歳以上でも手術が可能と判断し評価した後に、先述の盲腸や上行結腸がんによる単孔式腹腔鏡手術を行った場合ですが、2021年 9月まで14人(男性/3、女性/11)、平均年齢:90.4(85~104)歳、手術後の在院日数中央値:11.5 ( 7~19 )日、手術中の出血量中央値:5 (少量~34)ml、手術時間中央値:155.5 (116~196) 分でした。

そして、手術直後は勿論痛みが有りますので鎮痛剤を使用して痛みのコントロールを行いつつ、身体の機能低下を防ぐために手術の翌日からはリハビリを導入することで入院時と同じくらいの状態で早期に退院ができるように図っています。

「高齢」だから手術ができないとか治らないということは無いのです。「高齢者のがん」だからという理由で決してあきらめる必要はないのです!

2021年11月01日

「人生会議」してみませんか

~もしものとき、自分らしく最期を迎えるために~

(この記事は2020年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科主任部長
福本 兼久


「人生会議」ってご存知ですか?

もしかすると、厚生労働省のホームページやポスターで目にしたり、病院で耳にしたりしてご存知の方もおられるかもしれません。「人生会議」とは、「人生の最終段階における医療・ケアについて繰り返し話し合うプロセス」のことで、厚生労働省が普及のために定めた愛称です。海外では、以前から、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」として取り組まれていましたが、2018年からは日本でも積極的に取り組まれるようになってきました。

具体的には、もしものときに備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援する過程のことで、本人の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標としています。

人は誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気や怪我をする可能性があります。そのような時、命の危険が迫った状態になると、約70%の方が、医療やケアなどを自分で決めたり、自分の望みを人に伝えたりすることができなくなると言われています。そこで、もしものとき、自らが希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいることを、自分自身で前もって考え、ご家族や周囲の信頼する人 たちと話し合い、共有することが大事です。

最近よく「終活」という言葉を耳にするようになりましたが、みなさんはどのようなイメージでしょうか。一般的には、お墓やお金、葬儀などの事前準備、エンディングノートの作成などでしょうか。そこに、自分の最期の時に、どんな風に過ごしたいかということを考え、大切な人と共有する「人生会議」を加えると、より現実的な「終活」ができるかもしれません。

では、どのように「人生会議」を行えばよいのでしょうか。厚生労働省のホームページにもありますが、以下のような手順で考えていくとわかりやすいです。

 

Step1 あなたの大切なこと、希望について考えてみましょう。

例えば、生きることができる時間が限られているとしたら、あなたはどんなことを大切にしますか。家族や友人と過ごす時間でしょうか。それとも、仕事を続けることでしょうか。または、自分の好きなことをすることでしょうか。個人には個人の考え方があり、それぞれが違う考えだと思います。

Step2 あなたの健康について考えてみましょう。

すでに何かの病気で病院にかかっておられる方であれば、かかりつけ医や病院の担当医に、あなたの病気について相談し、その病気で将来どうなるのかを教えてもらいましょう。もし、がんで闘病中の方であれば、治療をどのような状態になるまで続けるのか、自分らしく生活ができなくなるような治療は希望しないのか、治療はできなくなってもできるだけ苦痛は取り除いて欲しいのかなど、病状によって様々な考え方があると思います。

Step3 あなたの信頼できる人、もしものとき、代わりに意思決定をしてくれる人を選びましょう。

誰でも予期できないできごとや突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。そんな時、あなたの代わりにあなたの意思を伝えてくれる人を選んでおくことが必要です。あなた自身のことをよく理解してくれている家族や友人で、どんな状況でもあなたの希望や思いを尊重して判断してくれる人を選びましょう。ただし、法的な権利はなく、財産分与などにはかかわりません。

Step4 あなたの希望や思いを、医療・介護従事者に伝えておきましょう。

Step1~3で話し合い、決めた内容を事前に医療・介護者に伝えておくことが大事です。

あなたの望んでいる医療やケアの内容と、医療・介護従事者の考える、あなたにとって一番良いと思われる内容が食い違った時は、担当医はとても判断に迷います。そのようなことを避けるためにも、もしものときに、あなたの信頼できる家族や友人にどれくらい任せるのか、あなたの望んでいたことと、あなたの信頼できる家族や友人の考えが違う時は、どうして欲しいかも考えておくと良いでしょう。これは、あな たの希望がより尊重されるようにするためです。

 

いかがでしたでしょうか。「人生会議」が、自分の人生を自分らしく終えるために、もしものときについて話し合う機会になればと思います。人の気持ちが変わることはよくあることです。一度だけではなく、何度も信頼できる家族や友人、医療・介護従事者と話し合いましょう。あなたの希望や思いは、いつでも、何度でも訂正することはできます。

終末期という言葉は、がん患者さんに対してよく使われますが、がん患者さんだけではなく、誰にでもいつか人生の最期はやってきます。その時に、いい人生だったな、自分らしい最期を迎えられたな、と思えるように、人生の節目にご家族や近しい人と「人生会議」をしてみてはどうでしょうか。

当院では、あなたの「人生会議」のお手伝いができるように、「あなたの思いをきかせてください」という事前申出書を作成し、配布しています。入院される方やこれから治療を受けられる予定の方にお渡ししていますので、ぜひご活用ください。

2020年11月01日

よくある外傷 切創について

(この記事は2020年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科 医長
平島 相治


今回は切創(いわゆる切り傷)についてお話させていただきます。刃物による切創もあれば、転んだ際の打撲での切創など形態は様々です。一部はペットによる咬創とも類似点がありますので、ご参考にしていただきたいと思います。

 

 切創によって受診する一番の理由は出血が止まらないことだと思います。出血はそれほど傷が深くなければ自然に止血します。しかし傷が皮下組織(俗に身と呼ばれる)の深さまでおよぶと、簡単には止血できません。こうなると縫合による止血、もしくは止血剤を用いての圧迫止血のいずれかが必要になります。

 我々が切創に対する時の一番の関心は、きれいな切創か、きれいでない切創かです。言い換えると、刃物による切創や屋内での転倒打撲による比較的きれいな環境で生じる切創か、屋外での工具の使用や外傷によるきれいでない切創なのかです。

 きれいな切創では、受傷から6時間以内に洗浄、縫合することで、止血だけでなく、創感染を起こさず、傷跡がきれいに治ります。縫合から48時間が経過すると、基本的に創は閉鎖するため、創部を覆わない状態でのシャワー浴が可能になります。縫合後の受診も2、3回で済むことが多く、縫合後5~10日で抜糸が可能です。まれに創感染が生じた場合は傷がつく前に抜糸し、改めて洗浄し、異物や細菌を出すために創を開放する処置に切り替えます。感染の一番の原因は、受傷時に細菌や異物を十分に取り除けなかったことであり、縫合後に外から細菌が入って生じるわけではありません。

 次にきれいでない切創では、大量の生理食塩水もしくは水道水で洗浄し、できるだけ創の細菌や異物の量を減らします。感染する危険性が高いことから縫合は行わず、最初から創を開放したままの状態にします。創が閉鎖しないよう細いガーゼやシリコン製のチューブを創に入れておき、止血剤や圧迫で止血を完了します。このきれいでない切創は、犬や猫などのペットによる咬創の処置とほぼ同様です。犬や猫の口腔内には多数の細菌が存在します。さらに犬や猫による咬創は咬創部が複数あり、その形状や深さも複雑であることから、感染の可能性が高くなるためです。

 患者様の中には切創後の処置として、洗浄や縫合に対して不安がある方も多いと思います。おそらく洗浄や縫合の前に行われる局所麻酔の注射や、洗浄や縫合後の痛みを心配されてのことと思います。局所麻酔の注射では、注射針が皮膚を貫くときと、麻酔薬を注入するときに痛みがあります。前者は細い針を選択することで、後者は注入速度を緩やかにすることで注射時の痛みを緩和できます。ここを乗り越えれば、注入後ほどなくして局所麻酔が効いてきますので、安心して洗浄や縫合を受けていただくことができます。また縫合後には鎮痛剤も処方しますので、耐え難い痛みはほぼないと言えます。

 以前は創感染のリスクを下げるために「化膿止め」と称して抗生物質を必ず処方しておりましたが、化膿止めよりも洗浄が大事と言われ、化膿止めは必須ではなくなっています。ですので、屋外での切創では受診までにご自身でもできるだけ流水で洗浄されるなどの処置を行っていただけば、さらに感染する危険性は低下すると思われます。

 ちなみに切創で受診される患者様で、出血部の近くをタオルやひもで緊縛して来られる方がいます。この状態は出血部以外の正常部が阻血してしまうために、おすすめできません。こういった場合、出血部を「おさえる」ように圧迫することが一番おすすめです。圧迫は止血できる最低限の力で十分です。圧迫を解除すると再出血する場合には、粘り強く圧迫することで止血が得られることも多々あります(我々も手術の際、止血の原則は圧迫です)。

 切創は我々が生活を送るうえで必ず経験するものです。できるだけ傷跡がわかりにくく、そして速やかに治すことを心掛けて、日々診療にあたっています。

2020年03月01日

足の付け根のあたりがふくらんでいませんか?

(この記事は2019年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 外科 医長 小林 博喜

外科 医長
小林 博喜



鼡径ヘルニアとは、本来お腹の中に納まっているはずの腸や内臓脂肪が、足の付け根あたりのお腹の壁の弱いところから外側にはみ出して、皮膚の下まで出てきてしまう病気で、俗に脱腸と呼ばれます。症状としては足の付け根が膨らむ(立った時に膨らみ、寝ると元に戻ることが多いです)他に違和感や痛みを伴うこともあります。放置しておくと、段々と大きくなるばかりか脱出した腸が戻らなくなる嵌頓と呼ばれる状況になり腸閉塞や腸壊死の原因となります。症状が無く、程度が軽い場合には経過をみることもありますが、基本的には治療が必要な病気で、治療法としては手術が唯一の手段となります。

 

 

鼡径ヘルニアに対する手術は様々な方法があり、脱腸している部位の皮膚を切って外側からアプローチする方法(鼡径部切開法)と、腹腔鏡を使って脱腸している内側であるお腹の中からアプローチする方法の大きく二つに分かれます。腹腔鏡を使った方法は、傷が小さいため手術後の痛みが少なく、社会復帰や仕事復帰が早期に可能であるといった点や、両側の脱腸がある患者さんでも同じ傷で一度に両側の修復が可能であるといった点でメリットがあります。一方で腹腔鏡手術は全身麻酔が必須であるため、心臓や肺の病気を抱えている方など全身麻酔が危険な方は受けていただくことができないという制約があります。それに対して鼡径部切開法は、傷がやや大きいため(3‒5㎝程度)腹腔鏡手術に比べるとわずかに回復に時間を要しますが、腰椎麻酔や局所麻酔でも施行が可能であり、心臓や肺への影響を少なくすることが可能という長所があります。したがって大まかには、全身麻酔が問題なく可能な患者さんには腹腔鏡による方法を選択し、全身麻酔の危険があったりその他の理由で腹腔鏡手術が難しい患者さんには腰椎麻酔や局所麻酔下に鼡径部切開法による手術を選択することが多いです。

 

 

 

当院での近年の鼡径ヘルニア手術の件数、内訳の推移はグラフの通りで、約6割の患者さんに全身麻酔下での腹腔鏡手術を施行しており、残り4割の患者さんに対して鼡径部切開法による手術を施行しておりますが、その中でも局所麻酔で行う患者さんの割合が増えてきております。

局所麻酔下での手術は全身への影響が極めて少なく、様々な全身疾患をお持ちの患者さんでも安全に行うことができる方法であり、当院では2016年から積極的に局所麻酔下での手術を施行し、全身麻酔や腰椎麻酔での手術に近い内容での手術を行うことができるようになっております。

大事なことは個々の患者さん毎にご年齢、全身の状態、鼡径ヘルニアの状況に応じた最適な手術法を選択し、安全かつ確実な鼡径ヘルニア修復術を施行することにあり、そのために我々はたゆまぬ努力を続けております。

足の付け根が膨らんでいる気がしたら、ご高齢の方や、全身疾患をお持ちの患者さんでも安全に手術ができる可能性がありますのでまずは当院外科の外来にご相談ください。

 

 

2019年05月01日

鼠径ヘルニア短期滞在手術

(この記事は2018年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院、外科 副部長
高木 剛

腹腔鏡手術のなかでも更にキズを小さくした鼠経ヘルニア修復術を行っています

当院の低侵襲腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術(TAPP法)

当院では2010年から積極的に腹腔鏡下鼠経ヘルニア手術(TAPP法)に取り組んでいます。当院の特徴としては、必要最小限の切開創で行う低侵襲腹腔鏡手術を行っています。胆嚢摘出や虫垂切除のような臓器摘出が必要な場合は小さな一つの切開創で行う単孔式腹腔鏡手術を行っていますが、鼠径部ヘルニアの場合は修復に必要なメッシュが腹腔内(お腹の中)に挿入できれば良いため、腹部に留置するポートと呼ばれる器具の直径を小さくした手術を行っています。

一般的には、直径12㎜ポートと5㎜ポートを併用した方法で行われていますが、当院では最大でも5㎜ポートとし、3㎜ポートを併用したキズを小さくした方法で行っています。これにより、手術後のキズは目立たないだけでなく、何より痛みが非常に少ないため鎮痛剤の使用が殆どなく、その結果として早期退院・社会復帰が可能となります。ただ全身麻酔を必要とするため、術後管理の安全面から手術後は最低1泊入院をして頂いております。

手術に必要な切開を最小としたうえで、合併症を起こさせないよう、より安全な腹腔鏡下鼠経ヘルニア手術を行っています。

 

西陣病院、手術写真
2018年07月01日