西陣だより

よくある外傷 切創について

(この記事は2020年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科 医長
平島 相治


今回は切創(いわゆる切り傷)についてお話させていただきます。刃物による切創もあれば、転んだ際の打撲での切創など形態は様々です。一部はペットによる咬創とも類似点がありますので、ご参考にしていただきたいと思います。

 

 切創によって受診する一番の理由は出血が止まらないことだと思います。出血はそれほど傷が深くなければ自然に止血します。しかし傷が皮下組織(俗に身と呼ばれる)の深さまでおよぶと、簡単には止血できません。こうなると縫合による止血、もしくは止血剤を用いての圧迫止血のいずれかが必要になります。

 我々が切創に対する時の一番の関心は、きれいな切創か、きれいでない切創かです。言い換えると、刃物による切創や屋内での転倒打撲による比較的きれいな環境で生じる切創か、屋外での工具の使用や外傷によるきれいでない切創なのかです。

 きれいな切創では、受傷から6時間以内に洗浄、縫合することで、止血だけでなく、創感染を起こさず、傷跡がきれいに治ります。縫合から48時間が経過すると、基本的に創は閉鎖するため、創部を覆わない状態でのシャワー浴が可能になります。縫合後の受診も2、3回で済むことが多く、縫合後5~10日で抜糸が可能です。まれに創感染が生じた場合は傷がつく前に抜糸し、改めて洗浄し、異物や細菌を出すために創を開放する処置に切り替えます。感染の一番の原因は、受傷時に細菌や異物を十分に取り除けなかったことであり、縫合後に外から細菌が入って生じるわけではありません。

 次にきれいでない切創では、大量の生理食塩水もしくは水道水で洗浄し、できるだけ創の細菌や異物の量を減らします。感染する危険性が高いことから縫合は行わず、最初から創を開放したままの状態にします。創が閉鎖しないよう細いガーゼやシリコン製のチューブを創に入れておき、止血剤や圧迫で止血を完了します。このきれいでない切創は、犬や猫などのペットによる咬創の処置とほぼ同様です。犬や猫の口腔内には多数の細菌が存在します。さらに犬や猫による咬創は咬創部が複数あり、その形状や深さも複雑であることから、感染の可能性が高くなるためです。

 患者様の中には切創後の処置として、洗浄や縫合に対して不安がある方も多いと思います。おそらく洗浄や縫合の前に行われる局所麻酔の注射や、洗浄や縫合後の痛みを心配されてのことと思います。局所麻酔の注射では、注射針が皮膚を貫くときと、麻酔薬を注入するときに痛みがあります。前者は細い針を選択することで、後者は注入速度を緩やかにすることで注射時の痛みを緩和できます。ここを乗り越えれば、注入後ほどなくして局所麻酔が効いてきますので、安心して洗浄や縫合を受けていただくことができます。また縫合後には鎮痛剤も処方しますので、耐え難い痛みはほぼないと言えます。

 以前は創感染のリスクを下げるために「化膿止め」と称して抗生物質を必ず処方しておりましたが、化膿止めよりも洗浄が大事と言われ、化膿止めは必須ではなくなっています。ですので、屋外での切創では受診までにご自身でもできるだけ流水で洗浄されるなどの処置を行っていただけば、さらに感染する危険性は低下すると思われます。

 ちなみに切創で受診される患者様で、出血部の近くをタオルやひもで緊縛して来られる方がいます。この状態は出血部以外の正常部が阻血してしまうために、おすすめできません。こういった場合、出血部を「おさえる」ように圧迫することが一番おすすめです。圧迫は止血できる最低限の力で十分です。圧迫を解除すると再出血する場合には、粘り強く圧迫することで止血が得られることも多々あります(我々も手術の際、止血の原則は圧迫です)。

 切創は我々が生活を送るうえで必ず経験するものです。できるだけ傷跡がわかりにくく、そして速やかに治すことを心掛けて、日々診療にあたっています。

2020年03月01日