西陣病院だより

ツリウムレーザー 前立腺蒸散術 (ThuVAP)

(この記事は2020年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 副院長
今田 直樹

前立腺は外腺と内腺で構成されており、前立腺肥大症とは内腺が肥大することです。

ミカンを想像してください。外腺は皮の部分で、肥大した内腺が実の部分です。正常な前立腺はスダチぐらいの大きさでしょうか。尿道がその真ん中を縦に貫通していて、肥大症になれば尿道が圧迫され排尿困難などの症状が出現するのです。前立腺肥大症の手術の目的は肥大した内腺を取り除くことです。開腹手術では、皮を切って実を丸ごと取り出すイメージです。夏みかんぐらいに成長した肥大症が適応です。多くは通常の経尿道的前立腺手術で対応できます。尿道から切除鏡を挿入し、電気メスで少しずつ切除していきます(下図)。この手術もとても良い手術ですが、近年、前立腺手術に電気メスに代わってレーザーを使って蒸散治療する方法が普及しつつあります。

満を持して2019年7月、当院では前立腺肥大症の新しい治療レーザーQuanta Cyber TM を日本第5号機として導入いたしました。ThuVAPは2017年のヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでは既に推奨グレードAと認められている治療法で、2017年日本泌尿器科ガイドラインでもBに認められています。次回の改定では恐らくA評価になると思われます。日本においてもホルミウムレーザー(A評価)、グリーンライトレーザー(A評価)、半導体レーザー(C1評価)による前立腺手術も認められており、徐々に増加しています。

前立腺のレーザー治療の特徴は、術中および術後の出血リスクが非常に低く、抗血栓療法中の方(血液サラサラ薬内服中の方)にも行なうことが可能で、術後の痛みが少なく、回復も早く、術後の尿道カテーテルの留置期間も短くて早期退院が可能となります。

当院が導入したツリウムレーザー(写真)の特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちなくて一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザビームの組織への深達度は0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。内服治療だけでは十分に症状が改善しない方、内服継続をしたくない方、手術を受けたいが入院期間の問題で手術をためらっている方には適している治療法ではないでしょうか。


Thuliumレーザ(ツリウムレーザ)

2020年01月01日

神経内科外来診療の実際

(この記事は2019年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

神経内科 山本康正

今年の4月から火曜日に神経内科外来を担当させていただいております。温かい病院の雰囲気に感動致しております。神経内科の外来では、頭痛、めまい、しびれ、脱力、失神、歩行障害、物忘れ、などがよくみられます。あまり気にしなくていい症状から要注意の症状まで混在しているところが特徴です。

頭痛

まず片頭痛かどうかを考えます。若いころから頭痛持ちで、体動により増悪、過剰にまぶしく感じたり音が過敏に聞こえたりする場合です。また、片側の頭痛や目の奥が痛いなどとやや深刻に感じる場合がありますが、頭頸部の筋緊張で感覚神経が圧迫を受けておこる大後頭神経痛で、局所マッサージ等で改善します。しかしその他、くも膜下出血をはじめとする脳卒中や、脳腫瘍などの脳疾患が疑われる場合は画像診断が必須です。

めまい

多くは三半規管や前庭といった内耳由来です。回転性の他に、船に乗ったような、雲の上を歩いているような感じもあります。しかし、脳卒中によるめまいを忘れてはいけません。小脳や脳幹などの脳卒中によることが多く、言語のもつれ、しびれ、脱力、複視などの神経症状が伴うと脳卒中の可能性が極度に高まり(レッドカード)、血管の危険因子を多く持っている場合も要注意です(イエローカード)。低血圧による脳貧血や軽いてんかんでもめまい感として感じる場合があります。

しびれ

多くは末梢神経障害由来ですが、脳卒中などによって感覚路が障害されると脳由来のしびれがおこります。手足の先、手袋・靴下の部分がしびれる場合は多発性神経炎が多く内科的検索が必要です。頸椎症や腰椎症などで神経根が圧迫されておこるしびれ以外に、鎖骨・肋骨・頸筋などの間隙で神経が圧迫される胸郭出口症候群、肘の部分で圧迫される肘部管症候群、手首のところで圧迫される手根管症候群などの神経圧迫によるしびれ(絞扼性神経障害)も高頻度です。

脱力

脳卒中では片麻痺が多く、拡散強調画像(DWI)で細かい病変も描出されます(図1)。病変が小さく見えても、頸動脈の狭窄(図2)や心房細動などが原因になっていることもあり、原因により治療法も異なります。症状の軽さは必ずしも軽症を意味しません。四肢や両下肢の脱力では脊髄障害やギランバレー症候群なども疑われます。運動神経が選択的に障害され筋肉が痩せてくる筋萎縮性側索硬化症(ALS)は難病です。

失神

失神は、脳に血がゆきわたらない場合におこりますが、一時的に副交感神経が亢進して血圧が下がった場合、起立性低血圧という立位時に血圧が維持できない状態、脈が遅くなりすぎて一時心停止するような時におこります。そのほかに、てんかんによる場合が重要です。診断には脳波検査が必須です。

歩行障害

動作が緩慢で表情が乏しく、手足のふるえがみられたりするとパーキンソン病が疑われます。しばしば便秘や嗅覚低下などを伴います。脳で不足しているドーパミン系を補充しますが、パーキンソン症候群といわれる薬が効きにくい一群があります。その他、脊椎・末梢神経・筋疾患も原因となります。

もの忘れ

アルツハイマー型認知症が代表で、最近のことが記憶できないのが特徴です。アセチルコリン系薬剤を用います。その他、幻覚などを伴うレビー小体型認知症や性格変化や能動性の低下がみられる前頭側頭型認知症があります。ただ、ボーっとしているなどの症状が、脳深部の小梗塞による意欲低下であったり、痙攣のないてんかん(非けいれん性てんかん重積状態)であったりすることがあり専門的鑑別が必要です。また、高齢者で頭痛を伴う場合、慢性硬膜下血腫も要注意です。

 

2019年11月01日

変形性股関節症について

(この記事は2019年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 整形外科 部長 牧之段 淳

整形外科 部長
牧之段 淳






動き始めや歩き始めにももの付け根に違和感があったり痛んだりあるいは靴下が履きにくいなどの症状はありませんか?年齢を重ねるにつれて強くなる股関節の痛みがあれば変形性股関節症かも知れません。原因は「臼蓋」と呼ばれる股関節の屋根が小さく大腿骨頭のかぶりが浅い「臼蓋形成不全」があることが多いです。一度関節軟骨が傷むと回復することは難しく次第に変形が進みます。

 

治療はまず痛みがある時は消炎鎮痛剤を飲んだり、安静にしたりしますが消炎鎮痛剤は胃腸を荒らしたり腎臓に負担がかかったりするので主に急性期に使用し3ヵ月以上経過した慢性期には他の痛みを抑える薬を使うことが一般的になってきました。他の治療法としては運動療法、温熱療法、装具療法などがあります。変形性股関節症では徐々に股関節の動きが悪くなっていくためストレッチや股関節の動きを拡大するリハビリを行ったり筋力を強化したりします。プールなど水中で歩くことは浮力を生かして股関節の負担が減るためお勧めです。

装具療法では歩行時に杖を使用していただき股関節にかかる負担を減らします。片足で立った時には体重の約3倍の力が股関節にかかると言われています。ですから例えば10kg 減量すればその3倍の30kg の負担が減ることになります。以上のような保存的治療を行っても痛みが強く日常生活に支障が生じる場合は手術を考えます。
50歳までの方は関節を温存する手術を考慮しますが現在では痛みを最も確実にとることのできる人工股関節全置換術を行うことが多くなっています。日本では年間6万件を超える人工股関節全置換術が行われております。脱臼、感染、肺梗塞および骨折などの合併症が合せて数%あり慎重に行う必要がありますが人工股関節の成績は向上してきており15年から20年程度は持つようになってきています。平均寿命も女性で87歳、男性で81歳と伸びてきていますが70歳以上であれば1回の人工関節手術で済む計算になります。手術後は翌日から歩行器を用いて歩き始め、術後3-4週間で1本杖をついて自宅に退院されております。術後3ヵ月も経過するとほとんど痛みはおっしゃられなくなられることが多いです。

痛みが股関節であれば分かりやすいのですがお尻の痛みや大腿の痛み、しびれ感を訴える方もおられます。実際には腰椎からの坐骨神経痛と紛らわしく股関節のレントゲンやMRIを撮影しないと分からないことも少なくありません。ももの付け根の痛みでお悩みの方は毎週木曜日に股関節外来(予約制)を開いておりますのでご気軽にご相談下さい。

2019年09月01日

高齢者の低栄養が問題です

(この記事は2019年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 医長
西村 智子



現代の日本で高齢者の栄養失調が問題となっていることをご存じでしょうか?
「粗食が健康にいい」「野菜中心」と食事に気を付けているご高齢の方々、
段々と体重が減ってきていませんか?
栄養失調になると体力が落ち病気になりやすく、また治りにくくなります。

現代の日本で栄養失調?

日本の高齢者の2割が低栄養であるといわれ、およそ半数に低栄養のリスクがあるといわれています。BMI(body massindex = 体重[kg]/ 身長[m]2)を指標にすると18.5未満の場合低栄養と考えられます。高齢者は食欲が低下し、飲み込む力が弱くなり、噛む力も落ちるので食べられる量が少なくなることが主な原因です。また生活習慣病を心配してカロリーや脂肪を控えめにすることは中高年世代には必要なことですが、高齢になってもそれを続けていると栄養失調になることがあります。

低栄養は何が問題?

肺炎や癌、手術後などたくさんの病気や傷が治りにくく入院期間が長引くと言われています。
また骨折や転倒、認知症の危険性も高まるとされています。
「図1」はもともと低栄養がある高齢患者さんが病気や事故で救急入院したとき経過が悪いことを示すデータです。

低栄養を防ぐためには?

バランスの良い食事

バランス良く食べ、特にたんぱく質(肉・魚・大豆など)は筋肉を増やして体力がつきますので積極的に摂りましょう。
高齢者ほど必要な栄養素と言えます。(肝不全や腎機能障害がある場合は担当医とご相談ください。)

食べやすい形にする

硬いものや噛みにくいものは柔らかく煮たり小さく切ったりして食べやすくしましょう。歯が悪い時は治療しましょう。

間食を利用する

すぐにおなかがいっぱいになる場合は間食をして食べる回数を増やしましょう。市販の高カロリー栄養剤を利用するのも効果的です。

食べる順番に気を付ける

最初に汁物で口を潤し、野菜やおかずから食べ始めましょう。ごはんを先に食べるとすぐにおなかがいっぱいになり量が食べられず栄養も偏ってしまいます。

 

体重を維持し低栄養にならないためには日々の食事への意識が大変重要です。
超高齢化社会である我が国では医療費増加の抑制にもつながりひいては国民全体の福祉にもつながります。高齢者と家族、地域が一体となって高齢者の低栄養を防ぐ枠組み作りが必要です。

 

 

2019年09月01日

透析療法における ドライウェイトのお話

(この記事は2019年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 泌尿器科 野村 武史

腎臓・泌尿器科 医長
野村 武史



ドライウェイトとは?
腎機能が正常であれば、体重の水の占める割合は一定に保たれま
す。これは腎臓が尿として余分な水を排泄するからです。しかし、
透析患者さんはこの腎臓の働きが障害されているため、余分な水が体内に溜まり、むくんだりします。
そこで透析療法により水のバランスを維持する必要があります。透析と透析の間の体重の増加は
主に口から入った水の量で決まってきますので、透析後と前の体重の増加をみて、透析中の除水量
が決められます。この時の基本となる体重をドライウェイト(DryWeight:DW)と呼びます。

ドライウェイト(以下、DW)を決めるための指標

DW を決める指標としては、臨床症状、血圧、心臓の大きさ、HANP、心臓超音波検査、下大静脈径などが使われます。
今回は、それぞれの意味を考えていきましょう。

臨床症状

体に余分な水分が貯まると、浮腫が下肢などに出てきます。さらに進むと、胸水がたまり、息苦しさが出てきます。胸部レントゲン検査で胸水が過剰状態であればDW を下げます。逆に、起立性低血圧(起きたりするとふらつきがみられる)で体内の水分が不足していれば、DW を上げます。

血圧

心機能が正常であれば、高血圧ではDW を下げ、低血圧ではDW を上げるのが基本です。心機能が低下している方や動脈硬化が強い方では他の指標を総合的に検討する必要があります。

心臓の大きさ(心胸郭比=CTR)(図 1)

当院で透析療法を受けられている患者さんは毎月レントゲン写真を撮影してCTR を測定しています。通常は、透析後のレントゲンで50%以下(女性は53%以下)が正常です。しかし、器質的異常が心臓にある場合は基準が変わります。一般に、CTR が大きくなっていく場合は水分の貯留を考え、DW を下げます。

 

 

HANP(ヒト心房ナトリウム利尿ペプチド)

HANP は主に心臓に貯蔵されており、水分過剰状態になると心臓が広げられ血中に分泌されます。数値が大きくなれば水分過剰と考えDW を下げます。しかし、不整脈などがあるときは変動が大きいためDW の指標になりにくいことがあります。

心臓超音波検査・下大静脈径

心臓の動き、心臓壁の肥大、心室・心房の内腔の大きさ、心臓弁の異常などを観察測定して、心臓自体に問題があるか否かを診ます。下大静脈径では水分過剰になっているかなど判断し過剰であればDW を下げます。

<最後に>

DW が適正か否かは、上述のような複雑な要素が絡み合っています。さらに、透析患者さん自身の自覚症状、日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)などもDW 決定の重要な要素になりますので、適宜DW の変更が必要になります。患者さん自身にあわせた治療方針をこれからも提案していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

2019年07月01日

食中毒について

(この記事は2019年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 内科 下村 考史

内科 医員
下村 考史



食中毒とは有害物質に汚染された飲食物を口にすることで様々な健康被害を受ける病気のことです。
これからの季節は気温も高く、湿度も高い季節になり食事なども傷みやすい季節となるために食中毒が起きやすくなります。今回はそういった食中毒についてご説明させていただきます。

 

まずは食中毒の原因についてです。食中毒の大半をしめるのがウイルスまたは細菌によるものですが、魚介類や肉類などについている寄生虫やキノコ毒などに代表される自然毒などでも発症するため以上の4種類におおまかに分類されます。

これからの季節に多くなってくるのは細菌性食中毒となりますので少しお話させていただきます。
細菌性食中毒がなぜこれからの季節に増えてくるかというと、細菌が高温多湿な環境下で増殖しやすいことが原因と言われています。特に有名なものがO-157やサルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌といったものであります。これらの予防のために最も重要になってくることは食材の管理と調理環境にあると言われています。食中毒は飲食店で起こるものと考える方も多いと言われておりますが、実は自宅の調理でも起こりうるということをまず把握していただく必要があると思います。

食中毒

最も重要なことは手指衛生です。手洗いをしっかりと行うことで手の細菌の食材への付着を防ぎます。続いて食材の管理ですが、少しの時間といってもやはりこれからは高温環境となりますので、冷蔵庫などの冷温環境で保存することが望ましいです。また生食するものでは新鮮であっても魚介類などは真水でしっかりと洗浄する、卵も生食をする際は原則新鮮なものとし洗浄する、などのこころがけが必要です。あとは調理の際に食材にしっかりと火を入れることや肉類や魚介類の調理などを行う際は調理器具をこまめに洗浄して他の食材に細菌を移さない努力することなどが日常で注意していただけることと思います。実際に食材各々に対する注意はできていても、包丁に付着した菌がサラダなどに付着して、そのサラダを生食することで食中毒を起こす事例が報告されており注意が必要です。

食中毒

 

ウイルス性食中毒では有名なノロウイルスなどがありますが、こちらは冬季に流行するものです。これらは2枚貝などに存在していることが多く、牡蠣やハマグリなどに注意が必要です。寄生虫では鯖の生食でのアニサキスなどが有名で、自然毒ではキノコ毒やフグ毒などが有名でこれらには季節性はありません。これらの摂取には充分に気をつけて下さい。

 

以上食中毒についてお話させていただきました。上記で説明させて頂いたようなことに注意して生活して頂き発症を予防することが最も重要ですが、もし腹痛、嘔吐、下痢、発熱などの症状がある場合には水分摂取を励行して頂き、医療機関の受診をお勧めいたします。

 

 

2019年07月01日

足の付け根のあたりがふくらんでいませんか?

(この記事は2019年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 外科 医長 小林 博喜

外科 医長
小林 博喜



鼡径ヘルニアとは、本来お腹の中に納まっているはずの腸や内臓脂肪が、足の付け根あたりのお腹の壁の弱いところから外側にはみ出して、皮膚の下まで出てきてしまう病気で、俗に脱腸と呼ばれます。症状としては足の付け根が膨らむ(立った時に膨らみ、寝ると元に戻ることが多いです)他に違和感や痛みを伴うこともあります。放置しておくと、段々と大きくなるばかりか脱出した腸が戻らなくなる嵌頓と呼ばれる状況になり腸閉塞や腸壊死の原因となります。症状が無く、程度が軽い場合には経過をみることもありますが、基本的には治療が必要な病気で、治療法としては手術が唯一の手段となります。

 

 

鼡径ヘルニアに対する手術は様々な方法があり、脱腸している部位の皮膚を切って外側からアプローチする方法(鼡径部切開法)と、腹腔鏡を使って脱腸している内側であるお腹の中からアプローチする方法の大きく二つに分かれます。腹腔鏡を使った方法は、傷が小さいため手術後の痛みが少なく、社会復帰や仕事復帰が早期に可能であるといった点や、両側の脱腸がある患者さんでも同じ傷で一度に両側の修復が可能であるといった点でメリットがあります。一方で腹腔鏡手術は全身麻酔が必須であるため、心臓や肺の病気を抱えている方など全身麻酔が危険な方は受けていただくことができないという制約があります。それに対して鼡径部切開法は、傷がやや大きいため(3‒5㎝程度)腹腔鏡手術に比べるとわずかに回復に時間を要しますが、腰椎麻酔や局所麻酔でも施行が可能であり、心臓や肺への影響を少なくすることが可能という長所があります。したがって大まかには、全身麻酔が問題なく可能な患者さんには腹腔鏡による方法を選択し、全身麻酔の危険があったりその他の理由で腹腔鏡手術が難しい患者さんには腰椎麻酔や局所麻酔下に鼡径部切開法による手術を選択することが多いです。

 

 

 

当院での近年の鼡径ヘルニア手術の件数、内訳の推移はグラフの通りで、約6割の患者さんに全身麻酔下での腹腔鏡手術を施行しており、残り4割の患者さんに対して鼡径部切開法による手術を施行しておりますが、その中でも局所麻酔で行う患者さんの割合が増えてきております。

局所麻酔下での手術は全身への影響が極めて少なく、様々な全身疾患をお持ちの患者さんでも安全に行うことができる方法であり、当院では2016年から積極的に局所麻酔下での手術を施行し、全身麻酔や腰椎麻酔での手術に近い内容での手術を行うことができるようになっております。

大事なことは個々の患者さん毎にご年齢、全身の状態、鼡径ヘルニアの状況に応じた最適な手術法を選択し、安全かつ確実な鼡径ヘルニア修復術を施行することにあり、そのために我々はたゆまぬ努力を続けております。

足の付け根が膨らんでいる気がしたら、ご高齢の方や、全身疾患をお持ちの患者さんでも安全に手術ができる可能性がありますのでまずは当院外科の外来にご相談ください。

 

 

2019年05月01日

食塩の多い食事は心臓病や胃がんになりやすい。

(この記事は2019年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 副部長
角田 聖



食塩(塩分)が高血圧の原因になり、心不全や脳卒中など心血管病の予防や治療に減塩食が大事だということはよくご存じだと思います。しかし食塩の摂りすぎが関係している病気は心血管病だけではありません。それに、自分は薄味にしているから大丈夫と思っていませんか? 実際にどれくらい塩分を摂っているか調べる方法について説明します。

食塩と関係する病気

食塩の摂りすぎは心血管病の原因となるだけでなく、(表1)のように多くの診療科で扱う病気と関係があります。動脈硬化、心不全、心筋梗塞、脳卒中など高血圧と関わりが深い病気になりやすいのは言うまでもないことですが、食事の塩分が多い国や地域では胃がんが多いことがわかっており、その理由として血圧は関係なく、胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌という細菌が、塩分が多い胃粘膜では感染しやすいからなどと考えられています。腎臓に石ができる腎尿管結石や骨粗鬆症も食塩が関係しています。

 

 

 

 

 

 

日本人と塩分

食べ物の保存を主に塩に頼っていた昔に比べ、現代の日本人の食塩摂取量は減少傾向にありますが、アメリカやイギリスに比べるとまだ多く、平成29年の調査によると日本人の食塩摂取量は1日あたり男性で10.9グラム、女性で9.1グラムでした。男性のほうが多いのは、同じ味付けでも男性は食べる量が多いからと分析されています。いくら薄味にしても、食べ過ぎては意味がないということです。

自分の食生活で塩分はどれくらい?

食塩は料理に溶け込んでいますから目に見えません。家庭での調味料や加工食品の成分表示を確認することで、1食あたりどのくらい塩分が含まれているか、計算できます。外食の場合もお店によってはカロリーや塩分表示のあるメニューがおいてあるので助かります。でもこれだけでは実際のところはわかりません。西陣病院では1回分の尿検査で1日の推定食塩摂取量が表示できるようになりました。1回の尿に含まれるナトリウムの濃度から1日の食塩摂取量を予想する計算式を使うので多少の誤差はありますが、24時間尿をためておくよりも簡便に、繰り返して定期的に調べることができます。

高血圧の人は1日6グラム未満、そうでない人は7~8グラム未満に

自分の食塩摂取量がわかったら、目標を決めます。日本人の食塩摂取量の目標値は男性で1日8グラム未満、女性で1日7グラム未満です。高血圧の人は男女とも1日6グラム、1食あたり2グラムにすることが目標です。しかし食塩を制限しているつもりでも、実際はあまり出来ていないものです。高血圧患者さんを対象にしたある研究によると、減塩を意識していない人の平均値は1日10.6グラムだったのに対し、減塩を意識している人でも平均9.4グラムの食塩を摂っていたという報告があります。西陣病院でも調べてみましたが、6グラム未満を守れているのはわずかに3~5パーセントの人だけでした。

 

<おわりに>

食塩の摂りすぎで年間4万人近くの人が亡くなっています。その半数は心血管病で、のこりは癌であることがわかっています(2007年データ)。高血圧の人はもちろんのこと、そうでない人も、大人も子供も減塩生活をお勧めします。一度担当の先生に検尿してもらって自分の食塩摂取量を知っておきましょう。

 

 

2019年03月01日

骨密度検査と骨粗鬆症の治療について

(この記事は2019年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 整形外科 医長 森 裕貴

整形外科 医長
森 裕貴



骨粗鬆症は骨の強度が低下してもろくなり、骨折しやすくなる病気です。
骨粗鬆症による脆弱性骨折が生じると、生命予後や身体機能が低下することが知られています。健康寿命を延ばすためには早期に骨粗鬆症の治療を開始し、骨折を予防することが重要です。

 

骨粗鬆症の患者は約1,300万人(女性1,000万人、男性300万人)と推測され、骨粗鬆症の結果として生じる骨折も増加しています。女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏、加齢、運動不足などの生活習慣が骨強度の低下する主な要因とされています。

骨粗鬆症の治療を開始する前に、まずは骨密度を測定することが重要です。当院では腰椎と大腿骨の2つの骨密度をDXA 法で測定しています。検査は苦痛を伴わず、短時間で行えます。原則1年に1回、特に女性では40歳頃から骨密度を測定することが推奨されています。検査を施行された方は、特に『若い人と比較した値(YAM)』に着目してください。多くの場合、YAM が70%以下で骨粗鬆症と診断されます。しかし、椎体骨折や大腿骨近位部骨折の既往があれば骨密度と関係なく骨粗鬆症に対する治療が必要です。

 

初期の骨量減少であれば、食事(Ca の摂取)、運動、日光浴などを行うことで骨量の増加が期待できますが、多くの方は薬物治療が必要です。治療薬は大きく分けて、骨吸収を少なくする薬(骨吸収抑制薬)、骨形成を助ける薬(骨形成促進薬)、Ca の吸収量を増やす薬(骨・Ca代謝調整薬)の3種類があります。現在、最も多く処方されている治療薬は骨吸収抑制薬であるビスホスホネート薬です。ビスホスホネート薬は有効である一方、内服時の注意点(起床後すぐに内服、服用後30分は横にならず、食事もさける)があるため、服薬が継続できない方もいます。半年や1年に1回の注射製剤も誕生しており、自分にあった治療薬を選択し、治療を継続していくことが最も重要です。

 

骨密度が気になる方や骨折の既往がある方は、ぜひ一度整形外科を受診してください。

 

 

2019年03月01日

NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)をご存知ですか?

(この記事は2018年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 内科 副部長 中村 英樹

内科副部長
中村 英樹



みなさん、NASH(ナッシュ)という病気をご存知ですか?
脂肪肝なら聞いたことがあるという方は多いと思いますし、中には健診などで脂肪肝と言われたことがある方もおられるかもしれません。

脂肪肝は飲酒など様々な原因でおこりますが、近年ほとんどお酒を飲まないにもかかわらず、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧など、いわゆる生活習慣病が原因で脂肪肝を発症するケースが増えています。これを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といいます。その多くの方は単純な脂肪肝(NAFL)で、これは比較的予後良好な疾患ですが、NAFLD の患者さんのうち約20%の方は肝臓に炎症や線維化があり、肝硬変や肝がんに移行する予後不良のものです。これが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)です。日本でも広く認識されるようになったのはここ20年ほどのことですが、生活習慣病の蔓延とともに注目を集めています。

肝がんの原因疾患としてはC型肝炎が有名ですが、最近新しい内服の抗ウイルス薬が登場し、ほとんどのC型肝炎患者さんは治ってしまいますので、C型肝炎ウイルスが原因の肝がんは今後減少していくと考えられます。その一方で生活習慣病患者さんの増加に伴い、このNASH からの肝がんが今後増えてくるだろうと予想されています。

日本人では成人男性の30%以上、女性の20%近くがNAFLD で、NAFLD は1,000~1,500万人いると考えられ、そのうちの20%(200~300万人)がNASH と言われています。わが国ではここ10年間でNASH 患者さんが倍増しています。つまり、早急な治療を必要とする患者さんが、自覚症状のないままに生活を送っているケースが非常に多いのです。

健診などで脂肪肝を指摘されたとき、単純な脂肪肝なのか、NASH なのかを判別するには、入院して肝生検(肝臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査)を行い、炎症や線維化があるかないかを確認する必要がありますが、最近は血液検査や特殊な超音波検査といった、より身体に負担が少ない判別方法が研究、開発されてきており、今後当院でも積極的に取り入れていこうと考えています。

また、肝臓の線維化を抑えて、肝硬変や肝がんへの進行を抑えようという新しいお薬の開発も進んでおり、有望な治療薬として期待されています。

まずは脂肪肝にならないように、食生活に気を付けたり、運動習慣を身に付けるなど、生活習慣を見直して予防していくことが最も大切ですが、脂肪肝を指摘された方は、是非一度主治医の先生にご相談ください。

 

2018年11月01日