診療に関すること::リハビリテーション科
誤嚥性肺炎の予防と運動について
![]() | リハビリテーション科 副主任 言語聴覚士 西村 豪文 |
肺炎は日本人の死亡原因の第3位であり、高齢者ではその死亡率は急激に上昇します(厚生労働省の平成23年度人口動態統計)。高齢者の肺炎の7割が誤嚥による肺炎です。
普段、私たちは嚥下(飲み込む)という行為を何気なく行っていますが、食べ物を口から胃へ送り込むという一連の運動を行うためには、多くの器官が複雑に働いています。咽頭は、①口から食道へ至る飲食物の通り道②鼻から肺へ至る空気や声の通り道が交わっていて非常に複雑な働きをします(図1参照)。嚥下の際には、声帯や喉頭蓋(喉頭のふた)により気道の閉鎖が行われ、食物を気道に入りにくくして(図2参照)。しかし加齢や病気などにより、協調運動がうまく機能しなくなり、飲食物などが肺などに入ることを「誤嚥(ごえん)」といいます。誤嚥によって肺に細菌が繁殖して炎症を起こすのが「誤嚥性肺炎」です。しかし、誤嚥すれば必ず肺炎を起こすわけではありません。誤嚥をしても咳により気道から誤嚥物を出せたり、免疫力が高ければ、肺炎に至らない事も多いです。他にも誤嚥した細菌量、細菌の種類、肺の健康状態など種々の要因が誤嚥性肺炎を発症するかに影響します。ですから、日ごろからこれらの要素を良好に維持するように心がけることが大切なのです。


飲み込みの際に気管を閉鎖する力、誤嚥物を気管から出すための喀出力(咳の強さなど)は、呼吸機能や声帯の閉鎖機能に影響されます。これらの機能を低下させないためには、日常生活での運動が重要です。例えば重たいものを持ち上げる時などには、無意識に息を吸い、胸を膨らませ、息が漏れないように声帯を締め、胸郭を固定します(一度やってみてください)。このことで腕は安定し、最大の力、瞬発力が発揮されます。この時には強力な声門閉鎖が行われており、身体の運動は声帯機能の維持強化にも繋がるのです。運動では体力維持も期待でき、免疫力向上にも繋がります。これに対し、寝たきりの生活では、胸郭や横隔膜の運動が阻害され、呼吸機能の低下を招いてしまいます。ベッド上中心の生活の方でも、呼吸機能や体力維持のためにベッド上で座位をとることや車椅子に乗車することは重要ですので、是非、行ってみてください。また、声帯をはじめ、呼吸機能の維持には、歌唱や会話、笑うことも重要です。こういった視点でみると、嚥下機能の維持のためには、ご家族や親しい方と、お出かけし、楽しくおしゃべりや、お食事をすることがなにより効果的かもしれません。
「食べること」は、単なる栄養補給だけでなく、生きる楽しみの一つであり、“生きがい” に関わる問題です。嚥下障害・誤嚥性肺炎を「治す医療」も大切ですが、加齢や疾患の特性上限界があります。当院では、嚥下障害の患者さんの「生きがいを支える医療」を念頭においた対応を大切にしています。当科でも、昨年7 月に言語療法室開設後、嚥下障害の患者さんに対して言語聴覚士、理学療法士、作業療法士による専門的リハビリを行ってきました。当院では、栄養サポートチーム(メンバーは各科医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士、薬剤師、臨床検査技師など)により、専門的な医療サポートを行っています。嚥下障害でお困りの方は、まずは主治医にご相談ください。| Copyright 2014,11,01, Saturday 12:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |

「コミュニケーション」の問題は失語症、構音障害や、注意・記憶などさまざまな高次脳機能障害によって生じます。失語症とは、脳の言語領域の損傷により、「聴く・話す・読む・書く」という言葉の機能に障害が生じることです。失語症では、その方の重症度や失語症タイプ、年齢や職業など身体的・社会的背景にそった練習を、種々のドリルを用いて行います。構音障害とは、脳の病気や舌癌などにより、「声が出ない」「呂律がまわらない」など、話しにくくなることです。構音障害では症状に合わせて、発声器官の運動や、ドリルなどを使用しての発音の練習を行います。また、ゆっくり、大きく、区切って話すなど代償的な発話法も指導します。「コミュニケーション」の問題に対しては、障害された機能を可能な限り改善することと、機能の改善が難しい場合も、残された機能を生かすことで、コミュニケーション能力の改善を目指します。
「食べること」の問題は、脳の病気や癌などにより、飲み込みが上手くできなくなることです。食べることは、単なる栄養補給だけでなく、生きる楽しみの一つであり、コミュニケーションとともに“生きがい”に関わる問題です。嚥下訓練(飲み込みの練習)では、飲み込みにかかわる器官(のどや口など)の体操、呼吸訓練、嚥下パターン訓練、食事指導(姿勢や食事形態の調整など安全に食事を摂取するための指導)を行います。また当科では、低周波刺激法、筋電図によるバイオフィードバック法(以下BF法)など新しい技法を積極的に取り入れています。嚥下訓練では“飲み込む運動” を改善することが目標ですが、うまく飲み込めているかどうかは、自分自身ではわかりにくいものです。BF法では、飲み込んだ時に、のどの筋肉から発せられる電流を皮膚上から記録し、モニター上で“飲み込む運動”の状態(強さ・持続時間など)をリアルタイムで見ていただきながら、嚥下訓練を行います。このBF法は、見えないものを、見えるようにする技法であり、日本では導入している施設はわずかですが、欧米においては信頼性の高い治療法として認知されています。



