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腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について 

(この記事は2011年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


中瀬有遠 外科 医長 中瀬 有遠

鼠径ヘルニア断面図 鼠径ヘルニア(脱腸)はお腹の中にある小腸などの一部が、足の付け根(鼠径部)の筋膜の間から皮膚の下に出てくる病気(西陣だよりの2009年5・6月号:福本兼久、ヘルニア(脱腸)外来」を開設します!でも紹介しました。)で、治療としては手術が唯一の方法です。当院では、前回ご紹介した手術法(鼠径部切開法)に加え、本年より積極的に腹腔鏡下手術(経腹的腹膜前修復法:TransAbdominal Pre-Peritoneal hernia repairを略してTAPP法と呼びます)を導入しており、今回はそのTAPP法について解説いたします。

 腹腔鏡手術は全国的にも普及がすすみ、当院でもあらゆる消化器(胃、小腸、大腸、虫垂、胆嚢など)手術に応用しております。そうした中、鼠径ヘルニアについても腹腔鏡での手術が広まりつつあります。その利点としては①キズがお臍を含め1~2か所でどれも小さいため術後の痛みが少ないこと、②キズもほとんどわからなくなるので美容上も優れること、③鼠径部切開法に比べ鼠径部のツッパリ感や腫れが少ないこと、④お腹の中からヘルニア部分を直接観察できるので診断が確実で、弱くなっている筋肉を広くメッシュで覆うことができ再発が少ないこと、などが挙げられます。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図1腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図2腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図3
写真1写真2写真3
 どのように手術を行うかというと、まず、臍を切開してポートと呼ばれる筒状の器具を装着し二酸化炭素でお腹を膨らませます。そしてお腹の中をカメラでみると、写真1のように鼠径部に穴があいているのがわかります。これが鼠径ヘルニアです。手術は、写真2のように直径5mmのカメラや器械を使います。次に、お腹の内側の腹膜という膜をはがし、補強に使う人工膜であるメッシュを入れる空間をつくります(写真3)。そしてメッシュを入れ(写真4)、生体吸収性の大きさが数mmほどの小さなスクリューで血管や神経などを避けて3~4か所固定します。腹膜を縫合して(写真5)手術は終了です。キズは吸収性の糸で形成外科的な縫合をしますので抜糸も必要がありませんし、写真6のように、縫った部分もほとんどわからなくなります。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図4腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図5腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術について_図6
写真4写真5写真6
 手術のために陰毛を剃る必要はなく、手術時間は1時間半前後で、従来法に比べて痛みも軽度で、翌日から今まで通り歩行や入浴もでき退院も可能です。当院では単孔式腹腔鏡手術で胆嚢摘出や虫垂切除を行っていますが(2010年5・6月号:宮垣拓也、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術について-傷の無い手術を目指して-でも紹介いたしました。)、TAPP法でも可能なものは単孔式手術をしています。
 以前にお腹の手術をしている方、全身麻酔のかけられないご病気をお持ちの方などは腹腔鏡手術の適応でない場合があります。また、嵌頓(かんとん)状態といって腫れが急にかたくなって手で押さえても戻らない場合は緊急手術が必要になり、腹腔鏡手術は行えません。当院では毎週火・水・木曜日の午後にヘルニア外来を開設しています。鼠径ヘルニア(脱腸)でお悩みの患者様は、その患者様のヘルニアの状態、年齢、全身状態、既往症などにより、もっとも良いと思われる手術方法を提案させていただきますので、お気軽に御相談下さい。


| Copyright 2011,07,01, Friday 12:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

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