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大腸がんに効く薬(抗がん剤治療)

(この記事は2008年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


福本 兼久 医師
西陣病院 外科 福本兼久




 今回は、大腸がんに対する抗がん剤治療についてお話しします。

 大腸がんは生活様式の変化から近年国内でも急激に患者数が増加しており、死亡率も男性では肺がん、胃がん、肝がんについで第4位ですが、女性では第1位です。

 多くは早期発見、外科手術により完治させることが可能ですが、残念ながら手術後に再発したり、手術前に肝臓や肺に転移があり手術だけでは治せない場合も増加しています。そのような場合には手術以外の治療法として、薬による治療いわゆる化学療法(抗がん剤治療)が行われます。以前は大腸がんに対する有効な抗がん剤は少なく、副作用が強い割に効果が弱い薬も多かったのですが、1980年代後半から様々な抗がん剤が開発され、現在はそれらの抗がん剤を組み合わせて投与する多剤併用療法が行われるようになり、大腸がん患者さんの生存期間は大幅に改善しました。具体的には、数年の間に約10ヵ月も延び、抗がん剤治療を受けている人の約半数が20ヵ月を超えて生存できるようになりました。現在も新しい抗がん剤の開発や臨床試験が多数行われており、更なる生存期間の改善が期待されています。では、実際の抗がん剤治療について少し詳しく説明します。

一般的に抗がん剤治療は、次の2つの目的に分けて行われます。

 1.手術後に再発を予防するため(補助化学療法)
 2.手術でがんがとりきれない場合にがんが大きくなるのを抑えるため

1. 手術後の再発予防のために行う抗がん剤治療として現在一般的に行われているのは、
UFT(ユー・エフ・ティー)カプセルとロイコボリン錠(ユーゼル錠)を約6ヵ月から1年間服用します。これらの薬は、副作用も少なく、外来で処方されて他の薬と同じように服用することができます。

 既に、抗がん剤を服用しなかった場合に比べて服用した方が、再発率が低いという報告もあり、術後に再発の可能性が高い場合は杭がん剤治療を行っています。


2.手術でがんが全てとりきれなかった場合や再発した場合は、注射や飲み薬の抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。具体的には、注射剤の5-FU(ファイブ・エフ・ユー)とロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチンなどを組み合わせたり、飲み薬と注射を組み合わせたりして行います。2時間ぐらいから約2日間かけて行うものまで様々な方法がありますが、副作用が少ない場合は2週間毎の外来通院で行っています。


 当院では週二回(月・水)化学療法専門外来を行っていますので、詳細は担当医または化学療法外来担当看護師までご相談ください。

 なお、当院は日本がん治療認定医機構研修施設の認定を受けています。

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腹腔鏡下手術について

(この記事は2006年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


髙木 剛 医師西陣病院 外科 高木 剛


腹腔鏡下手術とは、おなか(腹腔内)を炭酸ガスでふくらませた状態でおへそ(臍)周囲からカメラ(腹腔鏡)を挿入し、更におなかの数ヶ所に1Cm前後切開し、そこから手術用の器具(鉗子)を挿入し行う手術のことです。腹腔鏡下手術は、1989年に初めて胆のう結石症に対して行われて以来、傷が小さく、術後の痛みが少なく回復が早い(すなわち、入院期間が短く、社会復帰が早い)ことから、急速に普及してきました。
特に胆のう結石症に対しては腹腔鏡下手術が標準手術になっています。また、腹腔鏡下手術には健康保険が適応されています。

腹腔鏡下手術の利点
1、キズが小さくてすみます。
2、キズが小さいぶん手術のあとの痛みが軽度ですみます。
3、手術後の腸運動の回復が早いので、早くから食事をとることが可能です。
4、結果として、入院期間が短く、仕事や家事などへの復帰が早くできます。
 通常、大腸や胃の開腹手術では腹部を20Cm前後切開しますが、腹腔鏡手術であれば4~6Cm程度の傷1カ所と1Cm程度のキズを数ヶ所切開すれば手術を行うことができます。
腹腔鏡手術の手術時間は開腹手術と比べやや長めですが、出血量は少なく切除したリンパ節の個数にも差がありません。

腹腔鏡下手術の欠占(問題点)・合併症
1、.安全性…視野が狭くカメラには死角があるため、他の臓器損傷に十分注意する必要があります。また鉗子を用いて操作するため手術を行うのに制限される場合があります。そのため、腹腔鏡での手術が危険と判断した場合、途中から開腹手術に変更する場合があります。
2、癌の根治性…開腹手術に比べ癌の根治性が劣るのではないかといった理由で現在でも進行大腸癌に対する腹腔鏡下手術を敬遠している病院がありますが、最近では進行癌でも術後の生存率や再発率は開腹手術と変わりはないという報告がなされています。我々は癌の根治性を十分に意識し、開腹手術と同程度に癌病巣と周辺リンパ節の切除を行うよう努力しています。
3、合併症…おなかを炭酸ガスでふくらませて手術を行うために起こりうる特有の合併症があります。例えば、下肢静脈血栓症、肺塞栓症:足の静脈に血栓(血液のかたまり)ができることを下肢静脈血栓症、また、血栓が心臓を介して肺にとんで、肺の血管につまることを肺塞栓症といいます。肺塞栓症は致命的な場合がありますが、その発生頻度は0・1%程度と言われています。それらの予防のために足に弾性ストッキングをはいたりして予防しています。
このように腹腔鏡下手術は従来の開腹手術に比べ問題点(疑問点)はありますが、慎重かつ安全に行えば決して危険で、難しい手術ではありません。美容的にも、また身体への負担も軽いため、我々はこの腹腔鏡下手術を積極的に取り入れておりますのでご相談下さい。

一般的な消化器外科での腹腔鏡下手術には以下のようなものがあります。

腹腔鏡下胆嚢摘出術(胆嚢結石の手術です)
腹腔鏡下総胆管切石術(胆管に石がある場合、胆管を切開し縫合します)
腹腔鏡下大腸・直腸切除術(良性・悪性)
腹腔鏡下虫垂切除術(いわゆる盲腸の手術です)
腹腔鏡下胃切除術(良性・悪性)
腹腔鏡下胃・十二指腸穿孔手術(穿孔部を縫合閉鎖します)
腹腔鏡下小腸切除術(良性・悪性)

などがありますが、その他様々な疾患で腹腔鏡下手術が可能です。

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鼠径ヘルニア 足の付け根がふくらんできたら (下)

(この記事は2006年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
(前回の記事は こちら です)

福本 兼久 医師西陣病院 外科 福本兼久


前回は鼠径ヘルニアの原因と症状について説明しましたが、今回は実際の治療法について少し詳しく説明します。



鼠径ヘルニアの治療

 大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、放置するとだんだん大きくなるため治療が必要です。
鼠径ヘルニアの治療法は「手術」しかありません。

鼠径ヘルニアの手術材料 鼠径ヘルニアに対する手術は、子供の場合、飛び出した袋を切るだけの簡単なもので、手術翌日、または数日で退院できます。大人の場合はもう少し複雑で、飛び出した袋を切るだけでなく、弱くなった腹壁を補強することが必要となってきます。この補強として、古くから腹壁の弱い部分の周りの組織を縫い寄せる方法が取られてきましたが、この方法で補強すると縫い合わせた筋肉や金幕の部分に”つっぱり”ができ、術後の痛みやつっぱり感の原因になることがあります。また、加齢によってさらに筋膜が弱くなると再発することがあります。再発率は約2~10%と報告されています。

そこで現在では、弱い部分にメッシュ(細いポリエステル製の糸をシート状にしたもの)を挿入し腹膜を広く覆いヘルニア修復術を行うのが主流となってきました。メッシュを使うメリットは筋肉を無理に縫い合わせないので筋肉に緊張がかからず、術後の違和感や痛みが少なく早期社会復帰が可能で、再発が極めて少ない(1~5%)ことです。

 当院では、周りの組織を縫い寄せるかわりに人工の膜を入れて補強するメッシュ・プラグ法という手術方法を用いています。この手術を行った場合、手術後早期の退院も可能です。

また最近ではヘルニアの状態により傘状のプラグ(栓)だけでなく、プロリーン・ヘルニア・システム(PHS)、クーゲルパッチと呼ばれる平らなパッチを補強材として使用する場合もあります。



手術時の麻酔は?
入院期間は?


局所麻酔から全身麻酔まで使用すべきメッシュの種類によって変わります。
 手術後は、次の日には、食事をしたり歩くことが可能です。シャワーやお風呂に入ることもできます。
 そのため入院期間は数日から1週間以内で、退院直後から仕事は可能です。ただし、重い物を持つことやゴルフなどのスポーツなどおなかに力を入れるのは手術後1ヵ月位避けて下さい。



メッシュは安全ですか?

 ポリエステル製のメッシュは1956年からヘルニアの補強に使用されており人体に大きな影響を与えません。

 成人鼠径ヘルニアの手術は、人工補強材の登場によって、最近では患者さんの負担の少ない手術が実現可能になりました。なんといっても再発を防ぐことができるのは、患者さんには大きなメリットだと思います。また手術後の痛みが少ない点や、短時間で終わることなど、長所の多い手術なので、ここで理解を深めていただければ、いざ手術ということになっても安心して受けることができると思います。


 以上、2回にわたり鼠径ヘルニアについて説明してきましたが、鼠径部というデリケートな部位の症状だけに、病院に来るのを恥ずかしがる方もいらっしやいますが、かんとん状態になると危険です。おかしいなと思ったら、苦痛を感じる前に、いつでも当院にご相談ください

続き▽

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鼠径ヘルニア 足の付け根がふくらんできたら (上)

(この記事は2006年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


福本 兼久 医師西陣病院 外科 福本兼久

「ヘルニア」とは医学用語で「正常の位置にあるものが他の部位に飛び出してしまうこと」。腰、つまり椎間板ヘルニアを連想される人も多いかもしれませんが、今回ここでご紹介するのは「鼠径ヘルニア」、俗にいう「脱腸」です。



大人と子供で違う原因

ヘルニア図 鼠径ヘルニアは、足のつけ根 (鼠径部) がふくらむ病気です。これは、お腹の内側の膜 (腹膜)が鼠径部の腹壁の弱くなっている部分を通って袋状に飛び出し、そのなかに腸などの臓器が脱出することによって起こります。

 これは、タイヤの弱くなった部分から内部のチューブが突き出ているのに似ています。
ヘルニア…タイヤのイメージ 鼠径ヘルニアのできる原因は子供と大人でやや異なります。子供の場合は、本来ならば成長とともにふさがるはずの腹膜の袋がふさがらずに残ってしまうという先天的なもので、生後3ヵ月までに発見されたものは、自然に治ることもあるので、経過を見ることもありますが、生後5ヵ月からは手術が必要となります。また大人の場合は、腹壁の筋肉が加齢とともに弱まり、その弱くなった部分を通って腹膜の袋が出てきてしまうことが原因です。こちらは自然に治ることはなく、治療が必要です。



鼠径ヘルニアの症状
怖い「嵌頓(かんとん)状態」


ヘルニアの出るイメージ図 おもな症状は、立ち上がったりお腹に力を入れると鼠径部がふくらむこと。大きなものでは陰嚢まで達することがあります。このふくらみは、身体を横にしたり手で押さえると引っ込んでわからなくなることが特徴です。
 このように腸が出たり入ったりしているうちは、軽い痛みやつっばり、便秘が起きる程度で、強い痛みなどの症状はありません。しかし、恐ろしいのはお腹の外に出た腸(臓器)が飛び出したまま、戻らない(巌頓(かんとん)状態/上図)状態になってしまうこと。ふくらみが硬くなったり、激しい痛みや吐き気、熱などの症状が出ることもあります。
 すぐにはさまった腸 (臓器) を元に戻さなければ腸が腐ることもあるので、緊急手術が必要となります。
 次回は鼠径ヘルニアの治療法について詳しく説明します。



(続きの記事は こちら です)

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西陣病院外科の紹介

(この記事は2005年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです。掲載時より年月が経過しておりますのでスタッフの変更等ございます。ご了承ください。)


外科部長 宮垣拓也


 当院は昭和9年に西陣地区の福祉事業施設として創設されましたが、外科の歴史は比較的新しく、本格的に稼動し始めるのは、昭和62年に中村隆一先生(昭和39年卒)が常勤医(副院長兼外科部長)として赴任されるまで待たねばなりませんでした。
以後、日本外科学会・日本癌学会等を主宰した伝統ある京都府立医科大学旧第一外科の流れを汲む消化器外科学教室の協力を得て、徐々に形を整え、10年間中村先生をサポートしてこられた北尾善孝先生 (昭和60年卒)が平成14年以降二代目部長として、ますます当科を発展さすべく頑張ってこられましたが、残念ながら平成17年の3月をもちまして退職されました。尚、両先生には現在も非常勤医として外来診療をお手伝いして頂いております。

 スタッフはこの4月から責を担うことになった宮垣拓也(昭和61年卒)、福本兼久 (平成6年卒)、高木剛(平成7年卒) と紅一点、水田有紀 (平成14年卒)の4名です。
(水田医師は平成18年3月に転勤のため現在当院では勤務しておりません。平成18年4月より中瀬有遠医師 (平成8年卒)が着任しております。)
卒後10年から20年の脂がのりきった外科医中心で、チームワークも抜群、皆ベッドサイドに張り付くことを厭わない頼もしい仲間です。

 「良い医療とは、患者さんの命を助けることなんだ。そして、臨床家をやる限りは、1年365日、1日も休まず患者さんを診続けること。例えば、金曜の夜から月曜の朝までね、休みなんかとって患者さんから目を離していたら、患者さんどんどん死んじゃうわけ…。医者が患者さんをちゃんと診ていくということが大切なんだ。」

第106回 日本外科学会会長 幕内雅敏先生の言葉です。こういったことが求められ、3Kとも5Kとも言われる外科を志願する医学生は年々減る一方ですが、我々は「現場に神宿る」ならぬ「ベッドサイドに神宿る」 の精神で日夜診療に励んでいます。

opim1 診療の中心は言うまでもなく手術。消化器癌を主に過不足のない手術を目指し、症例を選び積極的に鏡視下手術も行っています。地域柄、80歳以上の高齢者の手術も日常茶飯事(90歳を超える方も稀ではありません) で、透析患者さんの手術も多く、苦労も多いのですが、皆さんがにこやかに元気で退院されるのが何よりの喜びです。その笑顔を見ると今までの苦労も吹き飛び、外科医冥利につきます。4月以降、地域の先生方のお力添えもあり、手術症例も飛躍的に伸び、気を引き締め頑張っていきたいと思っています。また、残念ながら手術だけでは治るのが難しい患者さんも少なからずおられ、化学療法 (副作用が少なく効果的な抗癌剤治療)、緩和医療(症状コントロールをきちんとして、肉体的苦痛は勿論、精神的、社会的苦痛をできるだけ緩和していく治療) も大きな柱と考えています。

 以前、東京で日本医師会創立50周年記念大会が催されました。その中で元東大学長の森亘先生が「美しい死 品位ある医療のひとつの結果」と題して特別講演をされました。森先生は病理学が専門。「優に千を数える」解剖の体験をもとに 「必要にして十分な治療を施された遺体にはそれらが見事に反映され、それなりの美しさが感じられる」なぜか「その疾患の結末として起こるべくして起こった変化の集まりであり、大きな修飾は感じられない」からで「節度ある医療であり、品位ある医療である」「節度ある医療は、知識、技術、教養、品位を併せ持った医師によって初めて下しうる。今日の医師にはこうした高度の素質が求められている」と訴えられ、非常に感銘を受けました。

 こういった治療、手術ができるよう、個人は勿論のこと、チーム (チームとはつくづく一人の人間だと思っています) として精進して参りたいと思いますので、患者様、地域の先生方には、ご指導、ご鞭漣のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

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