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がんによる有痛性骨転移の疼痛治療について

(この記事は2008年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

化学療法外来 がん治療認定医 宮垣 拓也(外科)

 骨に転移したがん(骨転移)は、骨を徐々に壊すなどして痛みを引き起こします。こうした痛みを取り除く方法には、転移した部分の骨を切除する手術や体外から照射する放射線治療、骨転移の進行を抑える薬や鎮痛剤、抗がん剤の治療などがあります。
 ただし、、骨転移は広がり、数も多くなると、手術や放射線の体外照射での対処が難しくなります。鎮痛剤や抗がん剤なども、量を増やせば胃腸障害、吐き気、眠気などの副作用が大きくなる恐れがあります。こうした多発骨転移の新たな対処方法が、2007年11月新たに保険適用になった「ストロンチウム-89」という放射線を発する薬の注射です。

 当院でもがんの多発骨転移の痛みに苦しまれる患者さんに対して、「ストロンチウム-89」(商品名:メタストロン注)による疼痛治療を本年5月より開始しました。京都府内ではこの薬品が使用できるのは当院を含めて4施設のみです(平成20年5月現在)

ストロンチウム89放射性医薬品「メタストロン注」とは

 メタストロン注(一般名:ストロンチウム-89)は物理学的半減期50.5日のベータ線(放射線)を放出する核種(アイソトープ)であり、同族体のカルシウム(Ca)と類似した体内動態を示すことから、骨転移病巣など骨の代謝の活発な部位に選択的に集積する特徴があります。したがってこのお薬が骨転移病巣に多く集積することから、そこから放出されるベータ線により骨転移による疼痛緩和効果をもたらします。





(画像はクリックすると大きく表示されます)

 このような特徴から、放射線治療の内用療法として使用され、標準的鎮痛薬では除痛が不十分で、外部放射線照射治療が適応困難な多発性骨転移における骨性疼痛の緩和に適しています。

 欧米では放射線内用療法剤として前立腺がんや乳がんなどの骨転移による疼痛緩和に広く用いられており、現在、世界41カ国で承認され使用されています。
また、ストロンチウム-89から放出されるベータ線(放射線)は透過性が低く、治療を受ける患者様も不必要な放射線被ばくを受けず、医療スタッフや家族などの周囲の人にも影響を及ぼしません。
放射性医薬品の使用については医療法その他の放射線防護に関する法令関連する告知及び通知により厳重に管理することが義務付けられおります。当院は1985年民間病院でははじめて、国内でも8番目にPET装置を導入しており、これらの放射線医薬品の安全な取り扱いに精通している放射線科医、スタッフが多数居りますので、ご安心して受診ください。

 我々はがんの痛みに苦しまれている患者さまに対してこのような放射線療法のみならず、つらい症状を少しでも緩和する手術療法、鎮痛薬・鎮痛補助薬や抗がん剤等をバランス良く投与する薬物療法など、全ての治療法の長所短所を加味した上、病態が違う個々の患者さんにとって何が一番いいのか常に考えながらそれらの治療法を組み合わせ、患者さんの痛みに対して奢らず真摯に対応する気持ちを大切に治療にあたっておりますのでいつでもお声をかけて下さい。


受診について

 ・詳細については担当医師 福本(外科)よりご説明させていただきます。
  一度お電話ください。

   連絡先: 地域医療連携室
       電話 461-8800(代)
       FAX 465-7327

 ・最初の紹介時に持参していただきたいもの
    診療情報提供書
    骨シンチグラフィ(最近撮影されたもの)
    血液検査データ
 ・初回診察時には本人さまだけでなく、出来れば家族の方も一緒に来院ください。


適応について

 本治療を行うには、以下のすべての基準を満たすことが必要です。
 ・組織学的及び細胞学的に固形がんが確認されていること
 ・本薬投与前に骨シンチグラフィで多発性骨転移が認められること
 ・骨シンチグラフィの取込み増加部位と一致する多発性疼痛部位を有すること
 ・非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やオピオイド及び従来の鎮痛補助剤では疼痛コントロールが不十分であること
 ・外部放射線治療の適応が困難な状況であること
 ・本薬の臨床的利益が得られる生存期間が期待できること
 ・十分な血液学的機能が保たれていること

有痛性骨転移における非観血的疼痛緩和法
有痛性骨転移における非観血的疼痛緩和法

(クリックすると画像が大きくなります)


前処置および投与後の患者さま・家族の方への説明(骨の痛みの治療Q&A 参照)

 ・本薬投与前後において、骨髄の働きを調べるため定期的に血液検査をします。
 ・本薬投与前2週間はカルシウム剤を使用しない。
 ・この薬の副作用で骨髄の機能が低下し、以後の治療に影響が出る場合があります。
 ・本薬投与後一過性に痛みが増強することがあります。
 ・骨髄機能を低下させる抗癌剤治療は本薬投与前後の一定期間はさける必要があります。
 ・妊娠している方や妊娠の可能性がある方は投与できません。
 ・患者様の周囲に居られる方が放射線に被ばくすることはほとんどありませんが、血液や排泄物などの取扱いには注意が必要です。最初の診察時には本人およびご家族や介助される方には説明いたします。
 ・本薬は抗腫瘍効果を示す明確な証拠はないため骨転移部位の腫瘍に対する治療を目的として使用できません。


 がんの痛みに苦しまれる患者さんおよび患者さんを支えておられるご家族・先生方や看護師さんの、少しでもお役にたてるよう、当院では小冊子『がんの痛みのコントロール』・リーフレット『がんの痛みのことがわかる本』を作成、配布しております。 

冊子「がんの痛みのコントロール」の紹介
リーフレット「がんの痛みのことがわかる本」
  
この記事の画像は、読売新聞社の許諾を得て転載しています(2008年2月15日 読売新聞夕刊より転用)。
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