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C型肝炎の新しい治療法について

(この記事は2015年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


葛西先生 内科部長・消化器内視鏡センター長
 葛西 恭一

 C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)に感染することにより引き起こされる肝臓病です。感染経路は過去の輸血や血液製剤、刺青、消毒が不十分な器具による医療行為などと考えられていますが、半数の方は感染経路不明です。HCV感染者は全世界で1億7000万人、本邦で150万~200万人存在すると推定されています。HCVに感染すると、20年~30年かけて慢性肝炎、肝硬変を経て肝臓癌を発症します。病状が進行する前にHCVを排除できれば肝癌の発症を防ぐことができますが、進行するまでほとんど自覚症状がありませんし、HCVが存在しても肝機能検査が正常の方もおられます。このため自分がHCVに感染しているかどうかわからない方がたくさんおられます。
 

 HCVには種類があり、日本人の感染者の70%が1型、30%が2型に感染しています。日本人に多い1型のHCVはインターフェロンが効きにくく、2型は効きやすい傾向にあります。HCVを体から排除することができる治療法はインターフェロン療法しかありませんでしたので、1型に感染している患者さんに対する治療は難しいものでした。しかし、薬剤の改良や投与方法の進歩により、以前は低かった1型に対するインターフェロン療法の治療成績は近年向上してきました。一方で、インターフェロンは副作用(発熱、倦怠感、うつ病、血球減少、皮疹など)が多くて強いため、治療したくてもできない方がたくさんおられるのが課題でした。C型肝炎特に、高齢者や女性、初期の肝硬変(代償性肝硬変)の方ではインターフェロンの投与量を減らさないと治療が続けられず、結局HCVを排除できないことが多くなっています。この様な方に対しては、肝庇護療法を行います。具体的にはインターフェロンの少量長期投与、瀉血療法、ウルソデオキシコール酸の内服、グリチル酸製剤の注射などですが、肝庇護療法はHCVを排除する治療ではありませので長期間治療を継続しなければなりません。

 2014年7月に、1型のHCVに対しインターフェロンを用いずにウイルスを排除する治療(インターフェロンフリー治療)が認可されました。2015年3月には、2型のHCVに対するインターフェロンフリー治療が認可されました。いずれも2種類の抗ウイルス薬を1型では24週間、2型では12週間内服するのみの簡便な治療で、奏効率は1型で85%、2型で97%と高率です。問題となる副作用はほとんど認められず、インターフェロンが効かない方や副作用で使えない方にも治療効果が認められます。治療費に関しては、インターフェロン治療と同様、インターフェロンフリー治療に対しても医療費の助成制度が適用される見込みです。

 健診等で肝機能障害を指摘されていても精密検査を受けたことがない方は、C型肝炎の可能性もありますので是非二次検査をお勧めします。HCVに感染していることがわかっている方で、インターフェロンフリー治療を希望される方は、当院内科外来または肝臓外来(水曜午後・予約制)にて御相談下さい。

インターフェロン治療

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機能性ディスペシアとは?

(この記事は2014年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


機能性ディスペシア
内科 臼井 智彦
食後の胃もたれ感、少ししか食べていないのにおなかが苦しくてそれ以上食べられない、食事とは関係なく胃が痛い、あるいは胃のあたりが灼けるように感じるなどの症状を感じたことはありませんか。もしかしたら機能性ディスペプシアかもしれません。
 機能性ディスペプシア(FD :functional- dyspepsia)とは、胃の痛みや胃もたれなどのさまざまな症状が慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査などを行っても、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどのような異常がみつからない病気です。生命にかかわる病気ではありませんが、つらい症状により、患者さんの生活の質を大きく低下させてしまう病気です。主な症状は「つらいと感じる食後のもたれ感」「食事開始後すぐに食べ物で胃が一杯になるように感じて、それ以上食べられなくなる感じ(早期飽満感)」「みぞおちの痛み(心窩部痛)」「みぞおちの灼ける感じ(心窩部灼熱感)」の4 つです。日本人の4 人に1 人は機能性ディスペプシアを持っているという調査結果もあり、決して珍しい病気ではなく、誰もが罹患する可能性のある病気です。

 この「機能性ディスペプシア」という病気の概念は、近年になって新しく確立したものです。それまでは、機能性ディスペプシアの患者さんの多くは「慢性胃炎」や「神経性胃炎」と診断されていました。本来「胃炎」とは、胃の粘膜に炎症が起きている状態を表す言葉ですが、胃炎があっても症状があるとは限らず、逆に症状があっても胃炎が認められないことも多々あります。そこで、症状があってもそれを説明できる異常がさまざまな検査でも認められない場合、胃に炎症があるなしにかかわらず「機能性ディスペプシア」と呼ばれるようになりました。

 機能性ディスペプシアは、食後のもたれ感と早期飽満感といった症状の食後愁訴症候群(PDS)と心窩部の痛みと灼熱感といった症状の心窩部痛症候群(EPS)の2つに分類されます。ただし、両方のタイプの症状が重なって起こったり、日によって感じる症状が変わったりすることもあり、どちらのタイプであるかはっきり分けられない場合も多くあります。原因は胃の運動機能障害、胃の知覚過敏、胃酸分泌、生活上のストレスなどの心理的・社会的要因、ピロリ菌などが言われています。また生活習慣が大きく関わっている場合もあり、生活習慣を
改めることによって、機能性ディスペプシアの症状が良くなることは少なくありません。治療は症状に合わせて消化管運動機能改善薬、酸分泌抑制薬、抗うつ薬、抗不安薬、漢方薬などさまざまな薬剤が用いられます。

 生命に影響を与える病気ではありませんが、日常生活にはかなりの影響が出てくることがあります。市販の薬剤で対応している患者さんも少なくありませんが、医療機関での適切な検査と対応があれば、症状はずっと楽になります。症状でお困りの方は一度受診してみてください。

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関節リウマチについて

(この記事は2014年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科 神尾 尚馨
関節リウマチというと、関節が変形して治らない病気というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。有名な画家ルノワールも関節リウマチによって手指が変形し、車椅子で生活していたことが知られています。しかし、近年早期診断・早期治療が可能になり、多くの新薬が開発されて、関節リウマチの治療は大きく変化しました。
 日本におけるリウマチ患者数は一般的に約70 ~ 80万人で、100 ~ 200人に1人が罹患するといわれています。どの年齢の人にも発症しますが、30 ~ 50 代で発症する人が多く、女性は男性の約3 ~ 5倍も高い頻度で発症します。リウマチは、本来外敵と戦うための免疫システムが何らかの原因で自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつと考えられています。免疫細胞が異常に活動して関節内に炎症が引き起こされ、関節の腫れや痛みが生じます。この炎症が続くと骨破壊が起こり、徐々に関節が変形します。免疫異常が起こる原因は現在のところはっきりとはわかっていませんが、最近の研究では遺伝的な素因に加えて喫煙や歯周病が関与していると考えられています。

 関節リウマチの診断は診察所見や血液検査、レントゲンなどから総合的に行いますが、早期診断の際に最も重視されるのは関節の腫れと痛みです。血液検査でリウマチ因子が陽性でも関節症状がなければリウマチとは診断されません。手指の第二関節(PIP関節)や指の付け根(MP関節)、手首など、小さな関節が痛むのが特徴で、歩くときに足趾の付け根(MTP関節)が痛むこともあります。同じように関節が腫れて痛む疾患に軟骨が擦り減って起こる変形性関節症があり、手指の第一関節(DIP関節)
の腫れと痛みは変形性関節症であることが多いと考えられています。また変形性関節症では長時間使っていると痛みが強くなるのに対し、関節リウマチでは朝起きた時にこわばりが強く、動かしているうちに楽になってくるのも特徴のひとつです。最近はMRIや超音波などを使用して関節の炎症を画像的に評価することもできるようになってきました。

 関節リウマチの治療は、以前は痛みの緩和を目標とした鎮痛薬やステロイドの使用が中心でした。しかし、新薬が開発されたことによって、炎症を抑えて関節破壊の進行を止めることを目標とした治療へと変遷しています。早期からの適切な抗リウマチ薬の使用に加え、日本でもこの10 年ほどの間に生物学的製剤と呼ばれる新しい薬が使えるようになり、炎症や痛みのない「寛解」と呼ばれる状態を目指した治療が行えるようになってきました。日本では現在7 種類の生物学的製剤が承認されており、それぞれの患者さんの病態に合わせた選択ができるようになってきています。またJAK 阻害薬という全く新しいタイプの内服薬も昨年承認されました。病態の解明や新しい薬の開発はこれからさらに進んで行くと期待されています。

このように大きく進歩している関節リウマチの治療ですが、関節リウマチの関節破壊は発症から2年以内に急速に進み、いったん進行すると不可逆的になるため、早期に診断して治療を始めることが重要です。関節の痛みやこわばりを感じたら、早めにご相談頂ければと思います。


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糖尿病の「診断」や「治療」「合併症」について

(この記事は2013年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科 富永 真澄


◆どんな病気?

 糖尿病は、血糖値の高い状態が続く病気です。初期には自覚症状がありませんが、放置すると、血管や神経が障害され、腎臓、目、神経などに合併症をひきおこします。



◆原因は?

 血糖値は、健康な場合はインスリンの働きで一定の範囲に保たれますが、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンの効きが悪くなると血糖値の高い状態が続くようになります。(インスリンとは、膵臓から分泌されるホルモンで、インスリンの働きによって血液中のブドウ糖が筋肉や肝臓にとりこまれて血糖値が下がる)



◆診断は?

血糖値
空腹時血糖値126mg/dl 以上
ブドウ糖負荷後2時間値200mg/dl 以上
随時血糖値200mg/dl 以上

 上記の血糖値のどれかにあてはまり、かつHbA1c(NGSP):グリコヘモグロビンが6.5% 以上の場合に診断されます。
 血糖値かHbA1cのどちらか一方だけがあてはまる場合には再検査をして、その結果を加えて診断します。(HbA1c:グリコヘモグロビンとは、過去1~2カ月の血糖の状態がわかる。正常では6.2%未満)


◆治療

 まず、食事療法や運動療法を行い、それだけで血糖コントロールが不十分な場合はのみ薬やインスリン注射などの薬物療法が必要となります。2009 年にインクレチン関連薬という新しいタイプののみ薬や注射が登場しました。食後の高血糖をおさえる、膵臓の保護作用があるなどの特徴に加えて、他の糖尿病治療薬と組み合わせることで良好な血糖コントロールを得られることがあり、治療のはばがひろがっています。

 糖尿病は、発症していても初期には何も症状がありません。そのために長年ほうってしまい、知らない間に合併症が進んでしまうことも少なくありません。血糖値が高いといわれたけれど自覚症状はない、ということが糖尿病の治療を難しくしているともいえます。けれども、何年も血糖値が高いままにしておくとさまざまな合併症が出てきます。合併症にはさまざまな深刻な症状があり、ひとたび進んでしまうと進行をくいとめることはできても元にもどすことはなかなか困難です。

 糖尿病を治療する目的は、この合併症をふせぐことにあります。そのためには、十分に血糖値を下げること、具体的にはHbA1c(NGSP)を6.9%未満にすることを目指します。



◆合併症について

 血糖値が高い状態が長く続くと、全身の血管や臓器が少しずつ障害され、いろいろな合併症があらわれます。細い血管が障害されておこる神経障害、網膜症、腎症は3 大合併症とよばれています。
 個人差はありますが、3 つの合併症の中では、神経障害が比較的早期より自覚され、糖尿病を発症して5~10 年で約3 割にみられるとされています。具体的には、手先、足先のしびれや痛み、感覚がにぶくなる、立ちくらみ、下痢や便秘を繰り返すなどさまざまな全身症状があげられます。
 網膜症は、おおむね10~14 年で半数近くに発症するとされています。網膜の血管障害は自覚症状がないままに進行していきます。かなり進んだ状態になってはじめて、視力低下や目のかすみ、視野の欠損などの視覚障害があらわれてきます。症状がなくても定期的に眼科を受診することが何より大切です。
 腎症は、糖尿病を5~15 年間わずらっている人の1/3 がかかるといわれています。尿検査で、尿アルブミンが陽性になると腎臓の合併症がはじまっていることを意味します。このとき自覚症状はありません。糖尿病しかし、腎症が進まないようにこの時期から糖尿病食ではなく腎臓食にきりかえることが理想的です。最近、早期腎症に対するアプローチが注目されるようになっています。当院では、月曜日・木曜日にスタッフによる「糖尿病透析予防指導」を行っていますので希望があればご相談ください。




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脂質異常症について

(この記事は2010年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科 医長 小林由佳


採血でコレステロール値が高いと言われたことはありませんか? 特に自覚症状がないために、そのままになっていないですか?それによってどんな事が起こるのか、どれぐらいまでコレステロールの値を下げればいいのかについて、考えていきましょう。

2007年の日本動脈硬化学会にて、今まで呼ばれていた "高脂血症" という名前が "脂質異常症" と変更されました。脂質異常症というのは、簡単に言えば血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が多すぎる病気のことで、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)140mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)40mg/dl未満、中性脂肪150mg/dl以上を指します。これは、今までは総コレステロール値が基準となっていたのが、LDLコレステロールやHDLコレステロールの方がむしろ重要であるということなのです。

LDLコレステロールは増えすぎると、血管の内側の壁にコレステロールが溜まり、詰まったり、硬くなって脆くなります。一方HDLコレステロールは、不要なコレステロールを取り込む役割があり、動脈硬化を防ぎます。よってLDLコレステロールが高いだけでも、HDLコレステロールが低いだけでも動脈硬化は進行する可能性があります。また、中性脂肪はそれ自体が動脈硬化の原因にはなりませんが、中性脂肪が多いと、HDLコレステロールが減ってLDLコレステロールが増えやすくなり、間接的に動脈硬化の原因となります。よって、脂質異常があると動脈硬化が進行するので、狭心症・心筋梗塞などの心臓病の発症率が普通の人よりも4倍、さらに高脂血症に加えて糖尿病や高血圧症があるなら、発症率が16倍に増加すると言われています。また脳卒中の危険も高まります。

治療としては、まず生活習慣の改善を心掛けます。これは血中脂質を下げるだけでなく、動脈硬化を促進するほかの要素、高血圧、耐糖能異常、肥満などの改善も期待できます。その主な内容は、(1)食生活の改善、(2)運動の増加、(3)適正体重の維持、(4)禁煙です。特に食事療法は重要であり、一度栄養指導を受けられることをお勧めします。また運動については、有酸素運動を中心に、1日30分以上、週3回以上をめざします。さらに、適正体重の維持も大切で、内臓脂肪がたまっていると血液中の脂質代謝の異常や耐糖能異常などが起こり、動脈硬化を促進するので、適正体重を維持することは、高脂血症の治療、動脈硬化の予防のためにも、たいへん重要なポイントの一つです。喫煙は中性脂肪の原料となる血液中の遊離脂肪酸を増やす作用もあり、さらに血液中のコレステロールが酸化されて動脈硬化が進行することや、HDLコレステロールの濃度が低くなることも知られています。よって、1日も早く禁煙することをお勧めします。しかし、どうしても生活習慣が改善できない人や、生活習慣を改善しても血中脂質の数字が下がらないときには、薬物療法を考えます。

どれぐらいコントロールが出来ればいいかについては、最近LDLコレステロール値をHDLコレステロール値で割ったLH比が重要と言われています。このLH比が脂質異常症の人は2.0以下、動脈硬化の危険因子がある人は1.5以下を目標とするのがいいでしょう。

また、気になる方は内科受診の際にご相談していただければと思います。


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