NEWEST / < NEXT   BACK >

経口補水液(ORS)で手術前の体調を整えましょう!

(この記事は2011年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)



麻酔科・手術室 部長 中川 博美


経口補水液 手術の成功のためには、手術を受けられる方ご自身でも体調を整えていく必要があります。手術前には、禁煙や断酒、十分な栄養摂取や睡眠、また、風邪をひかないなど体調管理に気をつけていただくことが大切です。そして、麻酔や手術の合併症を避ける目的で、手術の前日の夜からは食べたり飲んだりせずに点滴で水分や栄養を補給します。ところが、最近では、点滴の代わりに経口補水液(ORS: Oral Rehydration Solution)を用いた経口補水療法(ORT: Oral Rehydration Therapy)を行い、手術前の絶飲時間を短縮するようになってきました。

 経口補水液(ORS)とは、水分と電解質を素早く補給できるように塩分と糖分の濃度を調整した飲料です。スポーツ飲料に似ていますが、スポーツ飲料よりも糖分が控えられ脱水で失われる塩分が補充されています。ORSの歴史は、世界保健機関が1970年代にコレラ感染時の脱水症の治療にORSを推奨し、大きな成果を上げたことに始まります。その後、2003年にはアメリカ疾病管理予防センターがガイドライン「小児における急性胃腸炎の治療―経口補液、維持および栄養学的療法」において、軽度から中等度までの脱水症へのORSの使用を推奨するようになりました。我が国では、2002年頃から小児や高齢者の脱水症の治療だけでなく手術前後の点滴の代わりとしてORSが使用し始められ、最近では、手術からの早期回復にORSが有用であったと報告されるようになりました。

 西陣病院では、2010年の夏から麻酔科・外科・整形外科・泌尿器科・外科系病棟・手術室・栄養科・事務部の共同の取り組みとして、術前経口補水療法(ORT)を開始しました。術前ORTは術後の回復力を高め、安全性の向上・術後合併症の減少などを目指した術後回復力強化プロトコールの1要素でもあり、手術を受けられる方の順調なご回復を目的に行うものです。術前ORTが実施された方では点滴をした時のように痛い思いをせず、また、行動も制限されることがないので、手術の直前まで安全に快適に過ごしていただけるようになりました。ORSの水分・電解質の補給効果は点滴と同じ、あるいは、それ以上といわれていますので、より良い体調で手術を受けていただけるようになり、続く術中・術後の点滴療法もより適切に行えるようになりました。特に、もともと体内の水分保持量が少なく脱水状態に気づきにくいご高齢の方が手術を受けられる場合には、点滴よりも自然な形で水分を補給することができる術前ORTは大きな威力を発揮しています。

 この1年間で、すでに300名以上の方々に術前ORTが実施されました。多少、塩味が気になられた方もいらっしゃいましたが、約70%の方がORS全量を摂取され、約60%の方が「飲みやすかった」との感想をお持ちでした。そして、約80%の方が手術直前まで口渇や空腹を感じることなく、自由にくつろいで過ごされたご様子でした。「手術前に飲むものがあって助かった」、「次の手術でもORSを希望する」などのご意見も頂戴しました。なお、手術の内容やお体の状態によっては術前ORTが実施できない場合がありますので、適応判断は主治医や麻酔科医にお任せ下さいますようお願いいたします。


| Copyright 2011,09,01, Thursday 10:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

NEWEST / PAGE TOP / < NEXT   BACK >

RECENT COMMENTS

RECENT TRACKBACK


LINK

PROFILE

OTHER

POWERED BY

BLOGNPLUS(ぶろぐん+)