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ピロリ菌と私達の関係は?

(この記事は2010年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

曽我先生 内科 医長 曽我 幸一

 ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、「ピロリ菌」としてよく紹介されていますので、一度はこの名前をお聞きになったことがあるのではないでしょうか? 1982年にウォーレンとマーシャルが人の胃からの培養に成功し、翌年発表された細菌です。それまでは、胃内は酸性環境で細菌が生育しにくいという「常識」があったため、当初はなかなか理解が得られなかったようですが、現在ではピロリ菌と言えば、誰もが知っている菌になりました。

 ピロリ菌は大きさが3〜4μm程度ですが、片側に数本の細長い鞭毛を持ち、これを素早く回転させることで胃粘膜表面を自在に動き回ることができます。 また、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持っているため、尿素を分解し、アンモニアを生成する能力があります。これによりピロリ菌は胃酸を中和し、菌体自身を守ることができます。

 ピロリ菌の感染原因を個々に同定するのは困難ですが、口から入って胃に定着するというルートが定説です。排泄される便や胃からの嘔吐物などが直接・間接に他人の口に入り、感染が成立すると言われています。感染率は衛生環境と相関があり、欧米では低く、東南アジアなどで感染率が高いようです。現在、日本ではその中間くらいで、幼少期の衛生状況に大きく影響を受けるため、感染率は若年者では低く、50歳以上で高いと考えられています。

 ピロリ菌が関連する疾患としては、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、慢性胃炎などがあります。また、ピロリ菌感染と血小板減少症や慢性じんましんなどの意外な疾患での関連や、冠動脈硬化もピロリ菌感染者の方が起こしやすいことが指摘されています。このように、ピロリ菌感染から生じるさまざまな影響は、胃の病気にとどまらず、時には全身的な影響を引き起こすことが知られており、各分野で研究が進んでいるところです。

 自分の体でのピロリ菌の存在を確認するために、大きく分けて内視鏡を使う検査と使わない検査があります。内視鏡を使う検査として、内視鏡で組織の小片を取り、直接的にピロリ菌の存在を確認する培養法、組織鏡検法、迅速ウレアーゼテストなどがあります。現在は速くて、簡単で精度も高い迅速ウレアーゼテストが検査の中心となっています。

 また、内視鏡を行わずに間接的にピロリ菌を証明する検査として、検査薬を飲んだ後に呼気を集めて分析する尿素呼気試験や、採血で抗体価を調べる方法や便中抗原法などがあります。

 ピロリ菌への治療は、一般的には抗生剤と胃薬を使用した除菌治療が行われています。潰瘍を繰り返す方がピロリ菌除菌治療に成功すると、潰瘍が再発しにくくなることが知られています。 また除菌することで胃癌発症リスクが軽減し、一部の胃ポリープも除菌治療で消退することが知られています。

 日本ヘリコバクター学会はすべてのピロリ菌感染者の除菌を行うことを強く勧めていますが、残念ながら、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌内視鏡治療後の方に限って除菌療法に対して保険適応が認められており、その他の方に検査、除菌を行った場合は自己負担になるのが現状です。

 では、このようにさまざまな影響を及ぼしているピロリ菌に対して、どのように対応すればいいのでしょうか? 私たちは、まずは内視鏡検査(胃カメラ)を受けて頂くことをお勧めしております。当院では条件がそろえば、鎮静剤を使用した胃カメラを行うこともできますので、以前苦しかった方も一度検診のつもりで受けて頂くことをお勧めいたします。胃カメラは胃の病気だけではなく、食道、十二指腸の病気も確認することができます。ピロリ菌だけでなく、胃腸のことでも気になることがあれば、気軽に当院で御相談ください。

| Copyright 2010,09,01, Wednesday 12:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

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