西陣病院だより

透析センター開設50周年を迎えて

(この記事は2023年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 部長 透析センター長
小山 正樹



 

 当院の透析医療は1972年(昭和47年)7月、3名の透析患者さんの維持透析からはじまりました。その後医療機器の開発、設備拡充、スタッフ育成などにより現在は約370名の患者さんの透析治療にあたっております。おかげをもちまして昨年は透析センター開設50年を迎えました。

 

 血液透析とは腎不全状態にある患者さんの血液を体外に出し、人工腎臓を用いて血液をきれいにする治療です。当院で透析が開始された頃はコイル型の人工腎臓を使用しており、洗濯槽ほどの大きさの装置で膜が破れ血液が漏れること(リーク)がしばしばあったそうです。その後現在も使用されている中空糸型ダイアライザーが登場し膜リークが激減しました。透析液は清浄化が改良されオンラインHDFと呼ばれる治療法では、通常で使用される透析液を補充液として用いられるまでになりました。

 それから合併症の一つに手根管症候群があり、治療法としては手根管開放術が主流だったのですが、その原因物質であるβ2-mg を吸着する治療法としてリクセルという医療材料が1996年に発売されたこと、先ほどのHDFの普及と透析液清浄化により手根管症候群を呈する患者さんが激減しました。腎性貧血については輸血が第一選択だったため輸血によるC 型肝炎を罹患する患者さんが増加したのですが、1990 年に登場した造血剤によりC 型肝炎患者が減少しました。またインターフェロンの登場、抗ウイルス薬の開発によりC 型肝炎はほぼ完治できるまでになりました。

 施設としては、患者数増加にあわせて旧本館 3 階に第 1透析室、同 2 階に第2透析室、同4階に第3透析室を設置していましたが、2007年本館増改築に伴い本館2階に115床のワンフロア化をオープン(現在125床)し、利便性、効率性、安全性が向上いたしました。本館 3 階には病棟からベッドのままで搬送可能な入院透析 8 床を設置し患者さんおよびスタッフの負担軽減を実現しました。ベッド間隔も広くなり快適性も向上しました。

 また2010年には以前から懸念していた避難訓練を新型コロナの感染が広まる前の年まで毎年開催してきました。透析治療としては保険収載されている治療全域を実施し、循環動態の不安定な患者さんへの持続的血液透析や潰瘍性大腸炎の治療法である顆粒球除去療法などの特殊症例にも対応しております。また透析通信システムを採用し、コンピュータを活用した透析管理を実施しております。内シャントについては当院にて作成し、狭窄や閉塞時などの血管拡張術にも対応しております。また当院では慢性腎臓病とよばれる慢性に悪化する腎臓病にも積極的に介入を行い、CKD外来の開設、CKD教育入院などを実施し、永く腎臓 が機能できるようサポートを行っております。腹膜透析については隔週木曜にC APD 外来を開設、腎臓移植については他施設と提携しております。

 当院は内科をはじめ外科・整形外科などを有する総合病院で、透析患者さんの透析以外の治療においても早期に対応可能となっております。透析医療は医師、看護師、臨床工学技士などの医療専門職 が協力し合うことが必要です。これからもより安全で安心して透析を受けていただけるように 努力邁進いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

2023年03月01日

「前立腺肥大症に対する」ツリウムレーザー 前立腺蒸散術(ThuVAP)

(この記事は2023年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

副院長 腎臓・泌尿器科
今田 直樹



 

 2020-2022年、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が医療界に多大な影響を及ぼしました。特に良性疾患の手術に対しては抑制的な方向であったと思います。2019 年に認可を受けた前立腺肥大症の新しい治療レーザー機 Quanta Cyber TMを同年7月に日本第 3号機として導入いたしました。さあこれからという時にコロナ禍に巻き込まれました。

 

 ThuVAPは2017年のヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでは既に推奨グレードAと認められている治療法で、2017年日本泌尿器科ガイドラインでもBに認められています。次回の改定では恐らくA評価になると思われます。日本においてもホルミウムレーザー(A評価)、グリーンライトレーザー(A評価)、半導体レーザー(C1評価)に次いで徐々に増加しています。Quanta Cyber TMは2022 年末までに日本で 34 施設に、一昨年には東京慈恵会医科大学病院、昨年には東京医科歯科大学病院に導入され、高度医療施設にも評価されつつあります。

 さて、前立腺は外腺と内腺で構成されており、前立腺肥大症とは内腺が肥大することです。ミカンを想像してください。外腺は皮の部分で、肥大した内腺が実の部分です。正常な前立腺はスダチぐらいの大きさでしょうか。尿道がその真ん中を縦に貫通していて、肥大症になれば尿道が圧迫され排尿困難などの症状が出現するのです。前立腺肥大症の手術の目的は肥大した内腺を取り除くことです。開腹手術では、皮を切って実を丸ごと取り出すイメージです。夏ミカンぐらいに成長した肥大症が適応です。多くは通常の経尿道的前立腺手術で対応できます。尿道から切除鏡を挿入し、電気メスで少しずつ切除していきます(上右図)。この手術もとても良い手術ですが、近年、前立腺手術に電気メスに代わってレーザーを使って蒸散治療する方法が普及しつつあります。

 前立腺のレーザー治療の特徴は、術中および術後の出血リスクが非常に低く、抗血栓療法中の方(血液サラサラ薬内服中の方)にも行なうことが可能で、術後の痛みが少なく、回復も早く、術後の尿道カテーテルの留置期間も短くて早期退院が可能となります。

 当院が導入したツリウムレーザー(下写真)の特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちることなく一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザービームの組織への深達度は 0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また他のレーザーと比較して最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応範囲の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。
内服治療だけでは十分に症状が改善しない方、内服継続をしたくない方、手術を受けたいが入院期間の問題で手術をためらっている方には非常に適している治療法ではないでしょうか。いつでもお気軽にご相談下さい。

2023年03月01日

全腎的医療をモットーに多職種とのチーム医療

(この記事は2022年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 部長 透析センター長
小山 正樹



 

 全人的医療とは、一定の部位や疾患に限定せず、 患者さんの心理や社会的側面なども含めて幅広く考慮しながら、個々人に合った総合的な疾病予防や診断・治療を行う医療をいい、西陣病院でもこの理念の元に全スタッフが診療に従事しております。対しまして、全腎的医療とは、腎臓・尿路に関するあらゆる疾患に診断から治療まで全ての疾患を診療していく医療です。診療する臓器によっては、診断が内科、手術は外科と一体化していないことが多く、腎臓領域でも疾患によっては腎臓内科、泌尿器科にとその都度振り分けされることがあります。

 

 例えば、腎炎、腎不全は腎臓内科、腎結石、尿管結石、腎癌は泌尿器科と分かれておりますし、血尿では腎炎は腎臓内科、腫瘍・結石は泌尿器科と最初に受診した科から別の科に振り分けられることがあります。透析領域でも、日常の透析は自院で行っても、外科的治療を要する透析シャント作成は他の病院、PTA (経皮的血管拡張術)も他の病院にと患者さんの手間になることが少なからずあります。

 当院の腎臓・泌尿器科は、他の病院ではない一診療科で腎臓・尿路に関する全ての治療を行っております。尿を作る腎臓、尿を排泄する尿路、尿が作れなくなったら腎代替療法といったすべての腎臓・尿路系疾患を内科領域・外科領域を共に診ていく全腎的医療(Total Kidney Therapy)をモットーに治療しております。当院は、日本泌尿器科学会教育施設、日本腎臓学会教育施設、日本透析医学会認定施設に認定されており、スタッフはそれぞれの専門医および指導医を有しております。

 高齢化に伴い、慢性腎臓病(CKD)の患者さんは年々増加しております。慢性腎臓病とは自覚症状がないままに腎臓の機能がだんだん低下していく病気です。現在、慢性腎臓病が進行し、透析が必要になる腎不全患者さんは30万人を超えております。その予備軍である慢性腎臓病患者さんは成人人口の13%、1300万人と推定されており、国民病と言えるほど頻度が高い疾患であります。早期からの発見と腎不全の進行抑制、透析の導入を回避するために、当院では慢性腎臓病外来を設けており、慢性腎臓病教育入院なども行っております。看護師、管理栄養士、臨床工学技士、薬剤師、理学療法士、社会福祉士などの医療スタッフによる個別指導を行っており、多職種によるチーム医療を心掛けております。

 2021年からは、透析認定看護師および腎代替療法指導士による慢性腎臓病看護外来を開設しております。体調の確認、血圧、体重管理などの日常生活指導、管理栄養士による栄養指導のサポート、内服薬の服用・管理指導、検査データの説明、腎機能が悪くなった時の腎代替療法(血液透析、腹膜透析など)の説明などを医師のみでは不十分なところを、時間をかけて信頼性を築きながら診療・指導しております。

 検診で検尿異常を指摘された、腎機能が悪くなっている、尿が出にくい、尿漏れで困っているなどの腎臓・尿に関するお悩み事がございましたら、腎臓・泌尿器科にご相談していただけたらと思います。

2022年11月01日

尿路結石について

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
岩本 鴻太朗



 

疫学

日本人では上部尿路結石が95%以上を占めます。50年前と比べると罹患率は3.2倍に増えています。男性の6.5人に1人、女性の13.2人に1人が罹るとされ男性に多い疾患ですが、直近10年で女性の増加は顕著です。好発年齢は男性50代、女性60代です。

成分

結石成分は、男女ともカルシウム結石が約90%を占めます。男性は尿酸結石、女性は感染結石が続きます。

症状

結石は存在するだけでは特に症状を認めず、尿管に詰まることで激しい片側性の疼痛を引き起こすのが特徴的です。尿の流れがせき止められ腎臓が腫大した水腎症の状態になることが痛みの原因です。痛みとともに吐き気や嘔吐を起こすこともあります。また血尿もしばしばみられます。結石の位置によっては頻尿や排尿時痛、排尿困難感などの症状を伴うこともあります。

検査

尿路結石の診断にはまずは尿検査や超音波検査、レントゲン検査などの低侵襲な検査を行います。超音波検査では水腎症の確認ができます。レントゲン検査でほとんどの結石は確認できますが一部の結石は確認できないことがあります。CT検査ではすべての結石が確認でき、また急な疼痛を来す結石以外の疾患の検索にも有用です。

治療

1㎝未満の結石は自然排石が期待できます。1日2L程度の水分摂取を推奨し、必要に応じて内服薬の処方をします。1ヶ月以上排石しない場合や1㎝以上の結石の場合には積極的治療を検討します。以下に挙げた治療が主に行われますが結石があまりにも大きい場合には経皮的結石破砕術(PNL)や腹腔鏡下切石術が行われる場合もあります。いずれの治療もメリット・デメリットがあり、患者さんの背景や適応を十分に考えたうえで治療法を相談いたします。

体外衝撃波結石破砕術(ESWL
レントゲンで結石を確認しながら、体外で発生させた衝撃波を照射し結石を破砕する治療です。1回の治療は約1時間です。当院では日帰りで施行でき、基本的に大きな合併症は少なく患者さんへ
の負担が少ない治療となっています。レントゲンに写らない結石には施行できず、また結石によっては複数回の治療を必要とする可能性もあります。

■ 経尿道的結石破砕術(TUL
尿道から細い内視鏡を挿入し結石を直接見ながらレーザーで破砕します。入院で全身麻酔もしくは腰椎麻酔をかけて行い、入院期間は4~5日ほどです。破砕効果はESWLよりも大きいとされます。一方で尿管の損傷や術後の感染症などの合併症が発生する可能性があります。当院ではレーザーとしてQuanta Litho Evoという最新の機械を導入し治療を行っております。

再発予防

約半数が再発すると言われております。再発予防の基本は水分摂取であり、1日2L以上の水分摂取が必要とされています。最も頻度の高いシュウ酸カルシウム結石では、シュウ酸を多く含むタケノコやほうれん草、紅茶などの摂取を抑えることが推奨されます。またシュウ酸はカルシウムと同時に摂取するとシュウ酸の体内への吸収が抑制されます。

まとめ

尿路結石の患者さんは今後も増加が予想されます。再発予防と適切な治療の選択が重要です。気になる方は一度腎臓・泌尿器科を受診してください。

2022年05月01日

前立腺がん検診は受けていますか?

(この記事は2021年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
松田 旭央



 日本人の死亡原因の第1位は悪性新生物(がん)ですが、なかでも前立腺がんの罹患率は増加傾向にあります。2017年の統計では男性で第1位となり、日本人男性が最も罹患しやすいがんとなりました。1年間で新たに前立腺がんと診断される人数は10万人あたり約150人で、60歳頃から頻度が増加しています。(出典:全国がん登録による全国がん罹患データより)

前立腺がん検診

前立腺は男性のみにある臓器で、膀胱の下で尿道を取り囲むように位置し、精液に含まれる前立腺液をつくっています。早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありませんが、尿の出にくさや排尿回数の増加といった症状が出ることもあります。がんや炎症で前立腺組織が壊れると、PSA というたんぱく質が血中に漏れ出すので、血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性を調べることが可能です。一般的には 0-4ng/mlが正常範囲とされておりますが、年齢や前立腺肥大症、前立腺炎などの影響でも高くなることがあり、10ng/ml以上でもがんが発見されないこともあります。ただし、100ng/mlを超える場合はがんの可能性が非常に高く、遠隔転移も疑われます。PSA値が正常範囲を超える場合は、超音波検査やMRI検査などを追加して総合的に判断し、がんが疑わしい場合は前立腺生検による確定診断を行います。
 前立腺がん検診について、本邦では厚生労働省などで明確に定められた指針などはありませんが、50歳以上の方には検診が推奨されるという報告もあります。PSA値が1.0ng/ml以下のような低値であれば数年毎の検査でも問題ありませんが、1.0-4.0ng/ml の場合は 1 年毎の検査が必要です。

治療

前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法と多岐に渡り、また、複数の治療法が選択可能な場合もあります。がんの悪性度や転移の有無
などによって選択可能な治療法は異なりますが、それぞれの治療法にメリット・デメリットがあり、年齢や体の状態、患者さんの希望などを基に最適な治療法を検討していきます。前立腺がんは、早期発見し適切な治療を受けることができれば完治することが出来ます。検診で要精密検査となった場合は、必ず泌尿器科を受診してください。

 

2021年03月01日

夜間の頻尿で困っていませんか?

(この記事は2020年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
宮﨑 慎也



夜間頻尿とは?
夜間に排尿のため1回以上起きなければならない状態を指します。実際には2回以上の場合が良好な睡眠を妨げるため、それらを治療の対象とすることがほとんどです。夜間頻尿によって骨折のリスクや死亡率が上昇したという報告もあり、適切な治療を必要とすることがあります。
40歳以上の男女で、約4,500万人が夜間1回以上排尿のために起きる夜間頻尿の症状を有し、加齢とともに頻度が高くなります。日常生活における種々の活動に支障を及ぼす一方で、QOL(生活の質)への影響は個人差が大きいため、治療行う際には本人または介護者の希望が重要です。男性では3回以上、女性では4回以上の夜間排尿で支障度が深刻になることが示されています。

原因・検査

多尿(24時間あたりの尿量の増加)、夜間多尿(夜間尿量の増加)、膀胱蓄尿障害(1回排尿量の減少)、睡眠障害が主な要因となります。


ほかに肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病との関連も指摘されています。泌尿器科においては排尿日誌 (排尿時刻と尿量の記載)や残尿、必要に応じて男性の場合は前立腺、女性では骨盤臓器脱などの評価をおこなって、原因に見合った専門的診療を検討します。

治療

夜間多尿が原因の8割を占めており、その場合には夜間の飲水量の見直しやアルコール・カフェイン摂取の中止、塩分制限、ウォーキングなどの運動療法が推奨されています。効果が乏しい男性においては、昨今使用できるようになったホルモン製剤の使用も考慮します。

膀胱蓄尿障害に対しては、悪性腫瘍の合併が無いかの確認をおこないます。前立腺肥大症や過活動膀胱が原因となっている場合には、それぞれの薬物治療を検討します。市販の健康食品やサプリメント類は効果に一貫性があるものがなく、現時点で推奨されるものはありません。

睡眠障害のある方は生活習慣の改善をおこなったうえで、効果が乏しい場合には睡眠薬の使用も検討されます。高齢の方では薬剤の相互作用や副作用に注意して、決められた容量を守って服用することが大切です。夜間頻尿には上述のように、泌尿器科だけでなく内科的な疾患も要因となっている可能性があります。症状の強い方はかかりつけの先生に相談するか、泌尿器科への受診をご検討下さい。

2020年09月01日

ツリウムレーザー 前立腺蒸散術 (ThuVAP)

(この記事は2020年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 副院長
今田 直樹

前立腺は外腺と内腺で構成されており、前立腺肥大症とは内腺が肥大することです。

ミカンを想像してください。外腺は皮の部分で、肥大した内腺が実の部分です。正常な前立腺はスダチぐらいの大きさでしょうか。尿道がその真ん中を縦に貫通していて、肥大症になれば尿道が圧迫され排尿困難などの症状が出現するのです。前立腺肥大症の手術の目的は肥大した内腺を取り除くことです。開腹手術では、皮を切って実を丸ごと取り出すイメージです。夏みかんぐらいに成長した肥大症が適応です。多くは通常の経尿道的前立腺手術で対応できます。尿道から切除鏡を挿入し、電気メスで少しずつ切除していきます(下図)。この手術もとても良い手術ですが、近年、前立腺手術に電気メスに代わってレーザーを使って蒸散治療する方法が普及しつつあります。

満を持して2019年7月、当院では前立腺肥大症の新しい治療レーザーQuanta Cyber TM を日本第5号機として導入いたしました。ThuVAPは2017年のヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでは既に推奨グレードAと認められている治療法で、2017年日本泌尿器科ガイドラインでもBに認められています。次回の改定では恐らくA評価になると思われます。日本においてもホルミウムレーザー(A評価)、グリーンライトレーザー(A評価)、半導体レーザー(C1評価)による前立腺手術も認められており、徐々に増加しています。

前立腺のレーザー治療の特徴は、術中および術後の出血リスクが非常に低く、抗血栓療法中の方(血液サラサラ薬内服中の方)にも行なうことが可能で、術後の痛みが少なく、回復も早く、術後の尿道カテーテルの留置期間も短くて早期退院が可能となります。

当院が導入したツリウムレーザー(写真)の特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちなくて一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザビームの組織への深達度は0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。内服治療だけでは十分に症状が改善しない方、内服継続をしたくない方、手術を受けたいが入院期間の問題で手術をためらっている方には適している治療法ではないでしょうか。


Thuliumレーザ(ツリウムレーザ)

2020年01月01日

透析療法における ドライウェイトのお話

(この記事は2019年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 泌尿器科 野村 武史

腎臓・泌尿器科 医長
野村 武史



ドライウェイトとは?
腎機能が正常であれば、体重の水の占める割合は一定に保たれま
す。これは腎臓が尿として余分な水を排泄するからです。しかし、
透析患者さんはこの腎臓の働きが障害されているため、余分な水が体内に溜まり、むくんだりします。
そこで透析療法により水のバランスを維持する必要があります。透析と透析の間の体重の増加は
主に口から入った水の量で決まってきますので、透析後と前の体重の増加をみて、透析中の除水量
が決められます。この時の基本となる体重をドライウェイト(DryWeight:DW)と呼びます。

ドライウェイト(以下、DW)を決めるための指標

DW を決める指標としては、臨床症状、血圧、心臓の大きさ、HANP、心臓超音波検査、下大静脈径などが使われます。
今回は、それぞれの意味を考えていきましょう。

臨床症状

体に余分な水分が貯まると、浮腫が下肢などに出てきます。さらに進むと、胸水がたまり、息苦しさが出てきます。胸部レントゲン検査で胸水が過剰状態であればDW を下げます。逆に、起立性低血圧(起きたりするとふらつきがみられる)で体内の水分が不足していれば、DW を上げます。

血圧

心機能が正常であれば、高血圧ではDW を下げ、低血圧ではDW を上げるのが基本です。心機能が低下している方や動脈硬化が強い方では他の指標を総合的に検討する必要があります。

心臓の大きさ(心胸郭比=CTR)(図 1)

当院で透析療法を受けられている患者さんは毎月レントゲン写真を撮影してCTR を測定しています。通常は、透析後のレントゲンで50%以下(女性は53%以下)が正常です。しかし、器質的異常が心臓にある場合は基準が変わります。一般に、CTR が大きくなっていく場合は水分の貯留を考え、DW を下げます。

 

 

HANP(ヒト心房ナトリウム利尿ペプチド)

HANP は主に心臓に貯蔵されており、水分過剰状態になると心臓が広げられ血中に分泌されます。数値が大きくなれば水分過剰と考えDW を下げます。しかし、不整脈などがあるときは変動が大きいためDW の指標になりにくいことがあります。

心臓超音波検査・下大静脈径

心臓の動き、心臓壁の肥大、心室・心房の内腔の大きさ、心臓弁の異常などを観察測定して、心臓自体に問題があるか否かを診ます。下大静脈径では水分過剰になっているかなど判断し過剰であればDW を下げます。

<最後に>

DW が適正か否かは、上述のような複雑な要素が絡み合っています。さらに、透析患者さん自身の自覚症状、日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)などもDW 決定の重要な要素になりますので、適宜DW の変更が必要になります。患者さん自身にあわせた治療方針をこれからも提案していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

2019年07月01日

前立腺がんについて

(この記事は2018年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


腎臓・泌尿器科 医長 中村 雄一

高齢化に伴い、がん患者の数は年々増加しています。その中でも前立腺がんはこの10 数年で急増しており、2015 年には男性のがん罹患数の第1 位となりました。以前は高齢者に多いがんとして知られていましたが、最近では50 ~ 60 歳代で診断される方も増えています。

 

前立腺がんとは

前立腺は男性だけにある臓器で、膀胱の下にあり、精液の一部である前立腺液を分泌しています。前立腺がんは初期にはほとんど症状がありません。排尿に関する症状が診断のきっかけになることもありますが、それは前立腺がんと同時に存在する前立腺肥大症による症状であることが多いです。また、他のがんに比べて病気の進行が遅く、何年もかかってゆっくりと進行していくことが特徴です。

検査方法について

血液マーカーである前立腺特異抗原(PSA)が高い値であれば、精密検査を進めていきます。
精密検査では前立腺の触診や、MRIでの断層撮影を行います。それらの検査で前立腺がんの可能性が高いと考えた場合、前立腺の針生検を行います。針生検では麻酔を効かせた状態で前立腺に針を刺し、組織のサンプルを採取します。

実際の治療方法

主な治療方法は手術、放射線療法、内分泌療法の3つになります。

  1. 手術
    初期のがんに対しては、完全に治すことを目標に手術を行います。当院ではおなかを切る開腹手術を行っておりますが、最近ではダヴィンチというロボット手術が主流になってきています。
  2. 放射線療法
    放射線療法でも手術に匹敵する治療効果があるといわれており、手術をためらうようなご高齢の患者さんにはよい選択となります。最近では強度変調放射線治療(IMRT)が放射線治療の主流になっています。
  3. 内分泌療法
    精巣や副腎で作られる男性ホルモンは、前立腺がんの増殖を促進する働きがあります。内分泌療法では、男性ホルモンの分泌や作用を抑える薬を使うことでがんの進行を抑えることができます。

 

前立腺がん、

 

以上のように、前立腺がんの治療には様々な選択肢があり、当院ではがんの悪性度や進行度、患者さんのライフスタイルも参考にしながら、一人一人に合わせた治療方針をご提案しています。

 

2018年08月27日