西陣病院だより

糖尿病についての取り組み

(この記事は2023年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病内科 部長
矢野 美保


 

  糖尿病は現在めずらしい病気ではなくなってきており、その合併症は早期に適切な治療を開始することで進行しにくいと言われています。皆様のお役にたてるよう、当院の糖尿病チームでは様々な取り組みをしていますので御紹介します。

 

 御自分が糖尿病のどの状態にあるかを知ることは大切です。外来では血糖値や1ヶ月の血糖の平均値であるHbA1cなどをみて治療をしていますが、まず糖尿病の治療の基本は適切な食事と運動をすることです。糖尿病教室、教育入院、外来での様々な糖尿病チームのスタッフとの関わりにより知識を増やしていただけることを願っています。また、糖尿病の合併症は進行しないと無症状であることが多いため、下記をうまく利用していただきセルフチェックをおすすめします。

糖尿病教育入院

 基本2週間で、合併症などの評価、血糖調節(内服・注射剤)、糖尿病の知識を深めるためパンフレットやDVDによる指導も行います。(入院期間・日程は御相談下さい。)

検 査 内 容 血液・尿検査、胸部レントゲン、
腹部エコー・CT、心機能・動脈硬化検査、
骨密度、糖尿病神経障害検査、
眼底検査、体組成検査 など。

高齢者短期入院

 2泊3日でサルコペニア・骨粗鬆症・頭部MRI・動脈硬化検査・認知機能や嚥下機能の簡易評価、服薬管理指導・食事チェックなどを行います。

外来での活動

糖 尿 病 外 来 糖尿病の評価、治療、各種検査(外来での注射開始、血糖測定、必要時リブレ・リブレプロなどの連続グルコース測定も行っています。)
看 護 外 来 インスリンや血糖測定(リブレも含む)の指導、糖尿病に関する説明、各種相談。
フットケア外来 看護師による足のチェック・ケア(毎週火曜日)
薬剤師による指導 インスリン導入指導
透析予防指導 腎機能悪化の予防のため、医師・看護師・栄養士による指導

糖尿病教室

 毎週金曜日の14~15時に様々なテーマで行っております。

患者会(西陣糖友会)

 糖尿病の患者さんや御家族との交流を深めるため活動を行っています。入会を御希望の方は糖尿病教室の際にお尋ね下さい。

糖尿病デーのイベント

毎年11月14日の世界糖尿病デーに伴い、当院でもイベントを行います。是非御参加下さい。
日 時 11月11日(土)、13時半~15時
場 所 西陣病院本館地下2階
内 容 ミニレクチャー・クイズ大会・体操教室動脈硬化チェック・各種相談コーナー


2023年09月01日

便秘について

(この記事は2023年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科 医長
鈴木 俊生


 

  皆さんの中にも便秘でお困りの方も多いのではないでしょうか。日々の外来にも多くの患者さんがいらっしゃいますが、中には浣腸や摘便を要する状態の方もおられます。今回は便秘について、少し詳しくお伝えしたいと思います。

 

 平成28年の国民生活基礎調査では、便秘症の方は男性2.5%、女性 4.6 %でした。80歳以上に限ると男女ともに10%を超えています。
 日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされています。慢性便秘症ガイドライン(2017年)では便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。つまり、毎日排便がなくてもすっきり違和感なく排便ができていれば問題はありません。便秘はその原因によって図のように分類されます。

 

器質性便秘

 便が通過できない物理的な原因が大腸自体にあるものを器質性便秘といいます。大腸癌、腸閉塞、Crohn病に伴う狭窄などが原因となります。突然の排便障害と、腹部膨満感、腹痛、嘔気・嘔吐などの症状が生じます。緊急を要することもあり、大腸カメラやCTによる精査が必要となります。

症候性便秘

 内分泌疾患、膠原病、神経疾患などが原因の便秘のことです。基礎疾患の治療が必要になります。

薬剤性便秘

 抗うつ薬、向精神病薬、抗コリン薬(ぜん息、頻尿、パーキンソン病などの薬)、鎮咳薬、抗がん剤などの副作用による便秘や、下剤の乱用による便秘のことです。

機能性便秘

 検査で器質的異常がない便秘です。①弛緩性便秘、②痙攣性便秘、③直腸性便秘に分けられ、慢性便③の多くを占めます。生活習慣と関連が強く、食生活や生活様式の改善が肝要です。補助的に薬物療法を併用します。

弛緩性便秘
大腸を動かす筋肉が緩み、ぜん動運動が弱まり、便がスムーズに運ばれずに便秘になります。朝食をとらないことや、運動不足による便秘もこれに含まれます。

② 痙攣性便秘
ストレスなどの影響で、大腸の一部で痙攣性収縮が持続すると、ぜん動運動に連続性がなくなり便の輸送に時間がかかり過ぎて便秘になります。このタイプには刺激性下剤は症状を悪化させるため原則的には使用しません。

③ 直腸性便秘
習慣性便秘とも呼ばれます。便意をがまんする習慣により直腸のセンサーの感度が低下し、便意を催さなくなります。また、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れることも原因となります。一時的に排便反射を誘発する座薬、浣腸が用いられます。

便秘の治療薬について

 この数年でいくつかのあらたな便秘のお薬が登場しています。小腸から水分を分泌させて便を柔らかくしたり、自身の胆汁酸と呼ばれる消化液を使うことで便を柔らかくし腸の動きをよくして便秘を改善させる薬などで、既存の治療で改善しない場合に用います。便秘には適切な薬の選択が必要です。まずは外来で気軽にご相談ください。


2023年07月01日

様々な呼吸器疾患に向き合うために

(この記事は2023年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

呼吸器内科 医員
杉本 匠


 

  内科の中でも、呼吸器内科という分野をご存知でしょうか?馴染みのない方が大半で、疾患イメージが中々湧きにくいジャンルかもしれません。ここでは呼吸に関する臓器の病気や当院の検査について、少しでも皆様に身近に感じていただけたらとご紹介させていただきます。

 

 呼吸器内科とは、肺や気管、気管支など、呼吸に関係してくる臓器を扱う分野を言います。一番私たちに馴染み深い病気といえばいわゆる「のど風邪」もその1つでしょうが、それは「上気道炎」といって、あくまで空気の通り道である上方の気道におこる感染症の1つでしかありません。呼吸器内科ではさらに体の奥に迫る下気道等も含めて呼吸全般にまつわる様々な病気と向き合っています。
 部位の違いでいうと、気管支炎、肺炎などを筆頭に多彩な感染症がありますし、感染症に限らず、免疫系の疾患だと間質性肺炎や、あるいは悪性新生物では肺がんもあります。呼吸の能力の問題でいうと、喘息やCOPD(いわゆる肺気腫と昔は呼んでいました)もそうです。その他にも睡眠時無呼吸症候群やアレルギー疾患など挙げ始めるとキリがありません。
 皆様とのお付き合いの意味でも、風邪のようなよくある病気ですぐに治っていくものもあれば、命にかかわる病気や、生涯に渡って治療に向き合っていく必要のあるものまで様々です。その為、お一人お一人に最適の検査・診断とそれに合わせた治療を、皆様により良い形でそれぞれ選んでいく必要があります。
 その1つの手段として、当院では「気管支鏡検査(気管支ファイバースコープ)」にも力を入れています。気管支鏡検査とは、空気の吸い込む通り道伝いに、内視鏡のカメラを進めていく気管支・肺の検査のことです。内視鏡といえば胃カメラ・大腸カメラが有名ですが、その肺バージョンとなります。全ての呼吸器疾患で必要なわけではありませんが、特に肺がん、間質性肺炎や原因不明の感染症などで有用な検査で、他の検査では代わりにならないことも度々ある重要な検査方法です。

 

 

 今まではどうしても当院の機材で検査困難なケースもありましたが、現在、その気管支鏡検査をグレードアップして、超音波の検査を組み合わせたものでさらに精度を高めていけたらと日々研鑽を積んでいます。是非、当院にお任せください!
 長くなりましたが、最終的に辿り着ける診断は様々な候補がありますが、その多くの病気では、最初の頃は咳や熱など風邪のような症状から始まることもあります。「長引く風邪が…」「原因不明の咳がずっとなくならない」など、ちょっとしたことでも良いですので、お気軽に内科外来までお越し下さい。

2023年05月01日

結核 日本はようやく「低まん延国」に仲間入り

(この記事は2022年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

呼吸器内科 部長
上田 幹雄


 

  厚生労働省が2022年8月30日に発表した調査結果によると、2021年の国内の結核新規患者数は前年比9.6%減の1万1519人。人ロ10万人当たりに換算した罹患率は9.2と前年を0.9下回り、世界保健機関(WHO)が定めた低まん延の基準を満たしました。

 

 WHOは、結核まん延の程度を「高・中・低」の3つに分類しています。結核罹患率が人ロ10万人当たり10未満が低まん延国、10以上100未満が中まん延国、100以上が高まん延国と定義しています。結核は、明治から昭和2 0年ごろまでは、「国民病」「不治の病」などと恐れられた感染症でしたが、特効薬となる抗生物質「ストレプトマイシン」の発見や栄養状態・生活環境の改善などにより急激に減少してきました1970年代には人10万人当たり100以下となり、「中まん延国」になりました。この時期の減少ペースを維持できれば、2000年までには「低まん延国」に入る計算でしたが、その後減少するペースが鈍ってしまいました。(1997年には逆に増加しました)。減少が鈍化した理由としては、結核がまん延していた時期に幼少・青年期を過ごし感染していた人々の高齢化(結核は、感染してから発病するまでの期間、いわゆる潜伏期が長いため)、青年・壮年層での新たな感染、社会的関心の低下(受診の遅れ・診断の遅れ )、都市化に伴う感染機会の上昇と社会的ハイリスクグループの増加、医学的ハイリスク集団の増加などが考えられています。しかし、乳児へのBCG接種や健診の充実・拡大など地道な取り組みが功を奏し、予想より20年くらい遅れましたが、ようやく「低まん延国」に仲間入りすることができました。

 「低まん延国」にはなりましたが、同じ低まん延国である欧米との差はまだかなりあります。米国では1970年代後半に結核が人口10万対10の低まん延に近づくにつれ、もう結核は十分コントロールされたという認識が一般化し、予算が削減され公衆衛生的対応が手抜きになりました。その結果1980年代後半に横ばいから逆転上昇しました。そこで国が新たに「結核根絶」の戦略を練り、強力な対策を推し進めることで再び罹患率を減少させることに成功し、今では先進諸国の中で最先端の低まん延を維持しています。米国は、当たり前の対策をしっかり続けることが重要で、自国のような過ちを繰り返さないようにと他の国に呼びかけています。

 日本では、以前と比べて減ったとはいえ、まだ1年間に1万人以上新たに発病しています。決して過去の病気ではありません。米国の歴史を学び、結核を軽視しない努力が必要です。1人ひとりが結核についての正しい知識をもち、早期発見だけでなく、予防も心がけることが大切です。


2022年11月01日

高齢者の糖尿病短期入院について

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病内科 部長
矢野 美保


  糖尿病の方は、経過や糖尿病の状態により、合併症や併発症を認めることが多いとされています。普段から自分の状態を知ることも大切ですね。当院では、65歳以上の方を対象に高齢者特有の合併症も含めて評価する短期入院を行っていますのでぜひ御利用ください。糖尿病の治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命と生活の質の実現を目指すことと言われています。糖尿病があると、ない方に比べて、網膜症・腎症・神経症・動脈硬化などの合併症以外にも併発症としての骨粗鬆症・認知症なども多いと報告されています。一方で、治療の進歩に伴って、以前より糖尿病の合併症の発症が抑制されているとの報告もあります。日常から自分の合併症の状態を確認できればよいですね。西陣病院では、2週間の糖尿病教育入院以外に65歳以上の方を対象とした短期(2泊3日)の合併症評価の入院を行っています。

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは骨の量(骨量)の減少や骨の性質(骨質)の悪化により、骨が弱くなり骨折しやすくなる病気です。糖尿病では骨密度だけでなく、骨質が悪化していると言われています。当院ではDXA(デキサ)法というX線を用いる方法で、骨密度だけではなく骨質も評価出来ます。

サルコペニア

サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指します。糖尿病ではサルコペニアになりやすく、サルコペニアでは糖尿病も悪化しやすいと言われています。体組成の検査で筋肉量を測定し、握力や歩行速度の計測で評価出来ます。

認知症

糖尿病ではアルツハイマー型認知症や脳血管型認知症になりやすいと報告されています。アルツハイマー型認知症は大脳の表面と海馬(記憶をつかさどる部位 )の萎縮を認めます。脳病変の有無はMRI、脳の血管の状態はMRA、海馬の萎縮はVSRAD(ブイエスラド)という検査方法で評価出来ます。

高齢者の短期入院で行う項目

● 一般検査(血液・尿検査・胸部X線・心電図)
● 骨密度
● 頭部MRI・MRA・VSRAD
● 頸動脈エコー・心エコー・ABI(動脈硬化・心臓の機能の評価)
● 腹部CT(膵臓や肝臓などの評価)
● InBody(インピーダンス法による筋肉量や体脂肪等の体組成の測定)
● 看護師による認知機能の簡易評価・嚥下機能 の確認
● 薬剤師による服薬確認・指導
● 管理栄養士による食事内容確認・簡易型自記式・食事歴法質問票(BDHQ)による食習慣の分析や、その改善に向けた具体的なアドバイス
● 理学療法士による筋力などの評価

※短期入院のため、血糖調節は行いません。

入院の結果をふまえて、なにか治療が必要な場合は退院後、主治医による処方の追加や必要時他科に相談して治療法を考えます。ぜひ、短期入院を活用してみて下さい。御希望の方は糖尿病内科にお問い合わせ下さい。

2022年07月01日

最先端の内視鏡システムを導入しました

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科部長
消化器内視鏡センター長
稲垣 恭和

消化器内視鏡センターでは 2022年1月より内視鏡システムを全てオリンパス社製の最上位機種であるEVIS X1に更新し、最新のスコープも導入致しました。EVIS X1は世界初の5LED 光源を搭載しており、EDOF(Extended Depth of Field:被写界深度拡大)などの最新観察技術により、より明るく鮮明な画質での内視鏡観察が可能となっております。また、オリンパス社独自の NBI/RDI/TXI などの特殊光観察技術により、通常では発見できない微細病変の発見や、より安全で確実な内視鏡治療が可能となりました。当センターでは今後もチーム一丸となってより良質な医療を提供させて頂けるよう努力してまいります。

 

                             

2022年05月01日

心不全について

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 主任部長
中森 診


 
 
 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。心不全の原因は狭心症や心筋梗塞のほか、心臓の筋肉に障害が起こる心筋症、心臓の弁に障害のある心臓弁膜症などですが、高血圧の人は心臓肥大を生じて心不全になりやすいと言われています。日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では、心不全にA~Dの4つのステージが定められています。

 

心不全について

ステージA
心不全の危険因子を抱えている段階で、糖尿病や高血圧など心不全悪化の原因になる危険因子を抱えているものの、心臓の働きは正常で心不全症状もありません。

ステージB 
心臓の働き異常(心臓肥大、心拍出量低下)などが出てきた段階で、心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、不整脈などを発症していますが、まだこの段階では心不全症状はありません。

ステージC
心臓の働きの異常により、息切れ、むくみ、疲れやすさなどの症状が現れた時で、心臓の働きの異常に応じて治療薬が異なります。

ステージD
心不全が進行して治療が難しくなった段階です。

 心不全の症状には、収縮機能(血液を送り出す機能)が低下して十分な血液を送り出せないことから起こる症状と、拡張機能(全身の血液が心臓に戻る機能)が低下して血液がうっ滞することによって起こる症状があります。ポンプ機能低下による症状は、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞による症状は、息切れ、呼吸困難、むくみなどがあります。心不全には、急性心筋梗塞などにより急激に心臓の働きが悪くなり、命の危機にさらされることもある「急性心不全」と、徐々に進行して心不全の状態がずっと続く「慢性心不全」があり、慢性心不全は急に悪くなって急性心不全となることもあり、入院のたびに全身状態が悪化していきます。
 最初のうちは、階段や坂道などを登ったときにだけ息が切れる程度ですが、進行すると少し身体を動かすだけでも息苦しくなります。さらに悪化すると、じっとしていても症状が出るようになり、夜中に寝ている時でも咳や息苦しさで寝られなくなります。最近、収縮機能が正常の心不全(拡張不全)が多いことがわかってきました。静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、有効な治療法が限られます。また、高齢者では自覚症状が現れにくく、息切れがあっても、「歳だから仕方がない」などと見過ごし易いため、放置したまま悪化してしまい、夜中に呼吸困難を起こして救急搬入される患者さんも少なくありません。

 息切れや動悸は、狭心症や不整脈など、ほかの心臓の病気が隠れていることもありますので、今までできていた動作ができなくなった、急に体重が増えた、動悸や息切れを感じるときには、心不全の可能性がありますので早めにかかりつけ医に相談して下さい

2022年03月01日

膵臓がんについて

(この記事は2021年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科 副部長
伴 尚美


   日本人の死亡原因の 1 位は男女ともに「悪性新生物(がん)」ですが、がんは決して治らない病気ではなく、発見が早ければ完治もみこめる病気です。日本人に多い胃がんは、検診や検査の体制も整い、発症後も回復される方が増えています。
 一方で、予後が悪く難治性のがんといわれるのが膵臓がんです。全国統計では、男性では肺がん、胃がん、大腸がんについで死因の第4位、女性では大腸がん、肺がんについで第3位となっています。
 膵臓は周囲を他の臓器や血管に囲まれおり、周囲の動脈に拡がるとがんの大きさが小さくても手術ができないこともあります。周囲の血管に拡がり全身転移をする、またおなかの深いところにありみつかりにくいことなども予後の悪い原因となっています。
 膵臓がん全体の 5 年生存率は約11%と非常に不良ですが、10~20㎜の大きさで見つけた場合は約50%、10㎜以下の大きさで見つけることができれば80%以上に改善することが分かっています。

 

膵臓がんの症状

腹痛、食欲不振、腹部膨満感、体重減少、黄疸、糖尿病の発症・増悪、背中の痛み、などがあげられます。初期のころには無症状であることも多く、早期発見が難しいと言われています。

膵臓がんの危険因子

糖尿病の発 症・増悪、膵臓がんの家 族 歴、生活習慣(飲酒・喫煙)、肥満、膵炎、膵のう胞、膵管内乳頭粘液性腫瘍などがあげられます。

膵臓がんのおもな検査方法

 血液検査、腹部超音波検査、CT、MRI、また必要に応じて内視鏡的膵管造影検査、超音波内視鏡検査などが行われます。がんの見落としを防ぐために違う検査を相互に組み合わせ総合的な評価が必要です。

超音波内視鏡検査について

 膵臓は胃の後ろ側、おなかの深いところにあり、通常の腹部超音波検査ではみえにくいことがあります。超音波内視鏡検査とは、先端に超音波装置のついた内視鏡を胃に挿入し、より近くから膵臓を調べる検査です。これにより、膵臓全体を調べることができ、小さな腫瘍をみつけることができます。
 もし腫瘍がみつかった場合は、内視鏡を通して針を膵臓に刺し細胞を取り出す検査が可能です。この細胞を取り出す検査を、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)といいます。当院においても、7年前より超音波内視鏡機器を導入し、微小膵臓がんの診断に役立てています。

 

※ 膵臓がんは早期発見がいまだ難しいのが現状です。お腹が痛くて胃カメラをしたけど異常がないと言われた方、危険因子のある方、また危険因子がなくても膵臓が気になる方はぜひ一度ご相談ください。

2021年03月01日

大腸がん検診を受けましょう

(この記事は2020年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科部長
消化器内視鏡センター長 
稲垣 恭和



 
 日本人の死亡原因の1位は男女ともに「悪性新生物(ガン)」ですが、なかでも大腸がんは年々増加し続け、2016年の統計で罹患数は全がんの中で 1位となり日本人が 1番なりやすいがんとなりました。男性はおよそ11人に 1人、女性は13人に 1人が一生のうちに大腸がんと診断されており、がんによる死亡数については女性では1位、男性でも3位となっています。(出典:人口動態統計2018年(厚生労働省))

 

大腸がんの症状

進行した大腸がんは便秘、腹痛および血便などの症状で発見されることが多いですが、早期のがんではほぼ無症状です。そのために症状のない状態でのがん検診が望まれます。

大腸がんと生活習慣の関連

生活習慣に関わる大腸がんのリスク要因として、喫煙、飲酒、肥満および加工肉の摂取などが挙げられています。一方で、運動やコーヒーなどが大腸がんの発生を抑制する可能性のある因子とされています。これらのことに気を付けて規則正しい生活を送ることで大腸がんを予防していきましょう。

 大腸がん検診

大腸がん検診は40歳以上の方は毎年の受診が日本の厚生労働省より推奨されています。
検診では便中のわずかな血液を検出することができる便潜血検査が行われています。大腸がんはもろく血が出やすいため、便に微量に混入する目に見えない血液を検出します。便の採取は自宅で行う事が出来ます。便の表面を採便用の棒でまんべんなくこすり採取します。食事制限の必要もない簡単な検査です。
検診受診者の実に約7%の方が陽性となります。陽性の方は、大腸がんの疑いがありますので精密検査として大腸内視鏡検査が必要となります。検診陽性の方の約3%に大腸がんが見つかります。それでも検診陰性の方よりは何十倍も大腸がんである可能性が高いので検診陽性となれば大腸内視鏡検査が必要です。進行したがんでも毎日便に血が混入するわけではなく血が混入しないこともあり、そのような日の便であれば検査は陰性となってしまいます。ですから検診は必ず2日分の便を提出し、また毎年続けて受けることが重要です。
大腸がん検診で発見されるがんは60%以上が早期がんです。検診で発見される大腸がんは症状がでてから病院を受診し発見されるがんよりも早期に発見されることが多いため、治癒率も高いことがわかっています。大腸がんは、早期であれば90%以上が完治します。要精密検査となった場合には、必ず検査をお受けください。

大腸内視鏡の進歩

大腸内視鏡検査は、お尻から太さ 1cm 強の内視鏡を入れて大腸を調べる約 20~30分くらいの検査です。痛みを伴うこともありますが、細いカメラを使ったり、ベテラン内視鏡医がカメラの扱いを工夫することで軽減でき、希望があれば麻酔をしながら行うことも可能です。また大腸内視鏡治療の進歩は著しく、従来は外科治療が必要であったがんに対しても内視鏡で切除ができるようになってきています。大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) は近年発達した手技で、20mm 以上の大きな腫瘍でも切除することが可能であり、当院でも2013年より導入し良好な成績を得ています。

2020年09月01日

大動脈弁狭窄症とは

(この記事は2020年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 医長
前田 英貴



大動脈弁狭窄症とは、大動脈弁の開口部が狭くなり左心室から大動脈への血流が阻害される弁膜症疾患です。狭窄が軽度のうちは自覚症状がほとんどなく、高度な狭窄となり症状が現れてから、初めて見つかるケースが少なくありません。

 無症候の期間は長く続きますが、狭窄が進行すると心臓に負担がかかり動悸や息切れ症状が出現し、重症例では胸痛や失神、突然死を引き起こす可能性もあります(図①)。

最近は加齢に伴う弁の石灰化が原因のものが多く、高齢化が進む日本でも患者さんの数は増加し続けています。2017年の段階で60-74歳の2.8%、75歳以上の13.1%が大動脈弁狭窄症になっていると言われており、決して珍しい病気ではありません。

 大動脈弁狭窄症は症状と心臓の聴診で疑うことができ、心臓超音波検査(心エコー検査)で簡単に診断と重症度を評価することができます。狭窄が軽度から中等度のうちは、心臓の負担を和らげる薬物治療を行いながら、定期的な心エコー検査で進行の有無を観察していきます。根本的な治療法は、いよいよ狭窄が重症まで進行した場合に行われる、開胸手術による大動脈弁置換術(SAVR)です。しかし、開胸手術は体への負担が大きく、高齢者や体力が低下した手術リスクの高い患者さんに対しては、手術が困難となることが課題となってきました。そこで注目されているのが経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)です。カテーテルに沿って折りたたまれた人工弁を運搬し、大動脈弁に留置してくる治療です(図②)。

 SAVRと比較して体への負担が少なく、カテーテル挿入部の小さな傷で済む、入院期間が短い等のメリットがあります。手術リスクが高い患者さんにおいて、術後5年の成績でTAVIが従来のSAVRに劣らないことが証明されています。日本では2013年10月に保険適応されて以降、技術や機器の進歩に伴い身近な治療になりつつあります。これまで治療を諦めざるを得なかった高リスクの患者さんでも、治療を受けることができる時代になっているのです。

 大動脈弁狭窄症は正しく診断し、治療できるタイミングを逃さないことが重要です。当科では大動脈弁狭窄症の診断と評価を行うことが可能です。薬物治療を行いながら、患者さんとご家族の意思を尊重した上で、適切なタイミングでSAVR、TAVI共に治療実績のある病院へ紹介させていただきます。最近胸の症状が気になる場合や大動脈弁狭窄症をはじめとする弁膜症疾患でお困りのことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

2020年07月01日