西陣病院だより

切らない痔の治療 痔核硬化療法(ALTA療法)

手術をあきらめていませんか?安心安全確実で満足度の高い鼠経ヘルニア手術

(この記事は2024年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科医長
古家 裕貴

 

 

痔は日本人の約3人に1人の方が発症すると言われています。お尻から出血したり、排便時に脱出したり、痛みがでたりしていないでしょうか。これらの症状でお困りの方、注射で治せるかもしれません。

内痔核とは

 一言で痔といっても実は色んな種類があります。その中で内痔核は最も頻度の高いタイプになります。症状は排便時の出血や脱出が多く、痛みはないことが多いですがひどくなると痛みがでることもあります。急性期は肛門に塗る外用薬による治療を行います。症状が落ち着いた段階で必要な方には追加の治療をお勧めします。手術などで切除するか、今回説明する注射での治療法があります。

ALTA(アルタ)療法とは

 内痔核にのみ適応がある治療方法です。硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸(ALTA)という物質を内痔核に直接注射することで局所に一時的な炎症を起こします。その後1週間から1か月程度かけて線維化が起こり、だんだん痔が硬く小さくなり治っていきます。また痔核内の血の巡りを抑える効果があり出血もしにくくなります。1か所の内痔核なら手術に要する時間は10分程度で、全身麻酔は必要なく主に局所麻酔で行います。不安の強い方には鎮静剤を使用することも可能です。一度に数か所の内痔核を治療することもできます。手術による痛みや出血もほとんどないので術後の回復も早いです。治療費も手術による切除に比べて安くなるのもメリットの一つといえます。

当院でのALTA療法

 ALTA療法は手技を誤ると重篤な合併症(直腸狭窄や直腸潰瘍、前立腺炎/膣炎など)を引き起こす可能性もあるため、全ての医師が行えるわけではありません。当院には講習を受けた上で資格を持った外科医師が3人いますので安心して手術を受けていただけると思います。局所麻酔で行う手術になりますので外来で行うことも可能なのですが、当院では患者さんの安全のため手術当日に1泊入院していただくようにしています(条件を満たせば日帰り手術も可能です)。全ての痔に対して適応があるわけではありませんのでまずは適切に診断する必要性があります(外痔核や痔ろうは適応外になります)。また患者さんの状態によっては使用できない場合もあります。もし痔の症状でお困りでしたら、まずは気軽にご相談下さい。

2024年03月01日

「術後疼痛管理チーム」活動開始!

(この記事は2023年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

 

麻酔科 部長 中川 博美



手術の後は「切ったから痛いのは当然」と思っておられませんか。
当院では、麻酔科医や術後疼痛に係る所定の研修を修了した看護師・薬剤師も加わった「術後疼痛管理チーム」が活動をはじめ、「安全で痛みの少ない手術後」をお過ごしいただくことで患者様の順調な術後回復をご支援いたします。

 

 当院では20年ほど前から患者様が安心して安全に手術を受けていただけるように、医師・看護師だけでなく薬剤科・放射線科・臨床工学科・臨床検査科・総務室・経営管理室などの多くの部門が協力して、手術医療にかかわる安全管理業務を行う手術室安全管理委員会が活動してきました。この度、この委員会の活動の一環として、手術中のみならず手術後も患者様に安全で適正な術後疼痛管理をご提供し順調な術後回復につなげていくことを目的にする「術後疼痛管理チーム」を結成いたしました。
 チームメンバーは、麻酔科医、術後疼痛に係わる所定の研修を修了した専任の看護師・薬剤師、主治医、病棟看護師、病棟薬剤師と臨床工学技士から構成されています。チームの回診は、主に硬膜外患者自己管理型持続鎮痛法や経静脈的持続鎮痛法を用いて術後疼痛管理法を施行した患者様が対象となりますが、あまねく術後の患者様からの「痛い」・「気持ちが悪い」などの訴えがあったときの相談窓口としての役割も担っています。患者様には、麻酔科術前外来を受診された際に「術後疼痛管理計画書」を用いて個別の術後疼痛管理法についてご説明させていただきます。また、疼痛評価法(NRS:Numeric rating Scale)に基づき「痛みを数字で表現」していただくようにご協力をお願いいたします。万が一、悪心、嘔吐、かゆみ、下肢のしびれや運動障害などの術後鎮痛法による副作用が発生した場合には、チームメンバーに限らずお近くの医師、看護師、薬剤師にご遠慮なくご相談いただければ早期に対応させていただきます。
 手術後は「切ったから痛いのは当然」ではなく、安全な範囲内での十分な術後疼痛管理を行い「手術後もなるべく痛みが少なく辛くないように」お過ごしいただけるように、また、これにより、術後せん妄や混乱に陥ることなくより早く日常の生活に戻り、術後のリハビリテーションにも積極的に取り組んでいただけますように、チームで患者様の順調な術後回復をご支援できればと思っております。

 

 

  

  
2023年11月01日

糖尿病についての取り組み

(この記事は2023年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病内科 部長
矢野 美保


 

  糖尿病は現在めずらしい病気ではなくなってきており、その合併症は早期に適切な治療を開始することで進行しにくいと言われています。皆様のお役にたてるよう、当院の糖尿病チームでは様々な取り組みをしていますので御紹介します。

 

 御自分が糖尿病のどの状態にあるかを知ることは大切です。外来では血糖値や1ヶ月の血糖の平均値であるHbA1cなどをみて治療をしていますが、まず糖尿病の治療の基本は適切な食事と運動をすることです。糖尿病教室、教育入院、外来での様々な糖尿病チームのスタッフとの関わりにより知識を増やしていただけることを願っています。また、糖尿病の合併症は進行しないと無症状であることが多いため、下記をうまく利用していただきセルフチェックをおすすめします。

糖尿病教育入院

 基本2週間で、合併症などの評価、血糖調節(内服・注射剤)、糖尿病の知識を深めるためパンフレットやDVDによる指導も行います。(入院期間・日程は御相談下さい。)

検 査 内 容 血液・尿検査、胸部レントゲン、
腹部エコー・CT、心機能・動脈硬化検査、
骨密度、糖尿病神経障害検査、
眼底検査、体組成検査 など。

高齢者短期入院

 2泊3日でサルコペニア・骨粗鬆症・頭部MRI・動脈硬化検査・認知機能や嚥下機能の簡易評価、服薬管理指導・食事チェックなどを行います。

外来での活動

糖 尿 病 外 来 糖尿病の評価、治療、各種検査(外来での注射開始、血糖測定、必要時リブレ・リブレプロなどの連続グルコース測定も行っています。)
看 護 外 来 インスリンや血糖測定(リブレも含む)の指導、糖尿病に関する説明、各種相談。
フットケア外来 看護師による足のチェック・ケア(毎週火曜日)
薬剤師による指導 インスリン導入指導
透析予防指導 腎機能悪化の予防のため、医師・看護師・栄養士による指導

糖尿病教室

 毎週金曜日の14~15時に様々なテーマで行っております。

患者会(西陣糖友会)

 糖尿病の患者さんや御家族との交流を深めるため活動を行っています。入会を御希望の方は糖尿病教室の際にお尋ね下さい。

糖尿病デーのイベント

毎年11月14日の世界糖尿病デーに伴い、当院でもイベントを行います。是非御参加下さい。
日 時 11月11日(土)、13時半~15時
場 所 西陣病院本館地下2階
内 容 ミニレクチャー・クイズ大会・体操教室動脈硬化チェック・各種相談コーナー


2023年09月01日

便秘について

(この記事は2023年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科 医長
鈴木 俊生


 

  皆さんの中にも便秘でお困りの方も多いのではないでしょうか。日々の外来にも多くの患者さんがいらっしゃいますが、中には浣腸や摘便を要する状態の方もおられます。今回は便秘について、少し詳しくお伝えしたいと思います。

 

 平成28年の国民生活基礎調査では、便秘症の方は男性2.5%、女性 4.6 %でした。80歳以上に限ると男女ともに10%を超えています。
 日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされています。慢性便秘症ガイドライン(2017年)では便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。つまり、毎日排便がなくてもすっきり違和感なく排便ができていれば問題はありません。便秘はその原因によって図のように分類されます。

 

器質性便秘

 便が通過できない物理的な原因が大腸自体にあるものを器質性便秘といいます。大腸癌、腸閉塞、Crohn病に伴う狭窄などが原因となります。突然の排便障害と、腹部膨満感、腹痛、嘔気・嘔吐などの症状が生じます。緊急を要することもあり、大腸カメラやCTによる精査が必要となります。

症候性便秘

 内分泌疾患、膠原病、神経疾患などが原因の便秘のことです。基礎疾患の治療が必要になります。

薬剤性便秘

 抗うつ薬、向精神病薬、抗コリン薬(ぜん息、頻尿、パーキンソン病などの薬)、鎮咳薬、抗がん剤などの副作用による便秘や、下剤の乱用による便秘のことです。

機能性便秘

 検査で器質的異常がない便秘です。①弛緩性便秘、②痙攣性便秘、③直腸性便秘に分けられ、慢性便③の多くを占めます。生活習慣と関連が強く、食生活や生活様式の改善が肝要です。補助的に薬物療法を併用します。

弛緩性便秘
大腸を動かす筋肉が緩み、ぜん動運動が弱まり、便がスムーズに運ばれずに便秘になります。朝食をとらないことや、運動不足による便秘もこれに含まれます。

② 痙攣性便秘
ストレスなどの影響で、大腸の一部で痙攣性収縮が持続すると、ぜん動運動に連続性がなくなり便の輸送に時間がかかり過ぎて便秘になります。このタイプには刺激性下剤は症状を悪化させるため原則的には使用しません。

③ 直腸性便秘
習慣性便秘とも呼ばれます。便意をがまんする習慣により直腸のセンサーの感度が低下し、便意を催さなくなります。また、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れることも原因となります。一時的に排便反射を誘発する座薬、浣腸が用いられます。

便秘の治療薬について

 この数年でいくつかのあらたな便秘のお薬が登場しています。小腸から水分を分泌させて便を柔らかくしたり、自身の胆汁酸と呼ばれる消化液を使うことで便を柔らかくし腸の動きをよくして便秘を改善させる薬などで、既存の治療で改善しない場合に用います。便秘には適切な薬の選択が必要です。まずは外来で気軽にご相談ください。


2023年07月01日

オンライン資格確認について

(この記事は2023年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 医事課

オンライン資格確認について

 オンライン資格確認は、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等により、オンラインで保険情報の確認ができることです。
 マイナンバーカードの場合はカードリーダーに置き、ICチップ内の電子証明を読み取ります。顔認証や暗証番号による本人確認を行い、患者さんの保険情報を取得します。同意を得ることにより、患者さんから保険者への申請がなくても医療機関の窓口で限度額情報が確認できるようになります。

2023年05月01日

様々な呼吸器疾患に向き合うために

(この記事は2023年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

呼吸器内科 医員
杉本 匠


 

  内科の中でも、呼吸器内科という分野をご存知でしょうか?馴染みのない方が大半で、疾患イメージが中々湧きにくいジャンルかもしれません。ここでは呼吸に関する臓器の病気や当院の検査について、少しでも皆様に身近に感じていただけたらとご紹介させていただきます。

 

 呼吸器内科とは、肺や気管、気管支など、呼吸に関係してくる臓器を扱う分野を言います。一番私たちに馴染み深い病気といえばいわゆる「のど風邪」もその1つでしょうが、それは「上気道炎」といって、あくまで空気の通り道である上方の気道におこる感染症の1つでしかありません。呼吸器内科ではさらに体の奥に迫る下気道等も含めて呼吸全般にまつわる様々な病気と向き合っています。
 部位の違いでいうと、気管支炎、肺炎などを筆頭に多彩な感染症がありますし、感染症に限らず、免疫系の疾患だと間質性肺炎や、あるいは悪性新生物では肺がんもあります。呼吸の能力の問題でいうと、喘息やCOPD(いわゆる肺気腫と昔は呼んでいました)もそうです。その他にも睡眠時無呼吸症候群やアレルギー疾患など挙げ始めるとキリがありません。
 皆様とのお付き合いの意味でも、風邪のようなよくある病気ですぐに治っていくものもあれば、命にかかわる病気や、生涯に渡って治療に向き合っていく必要のあるものまで様々です。その為、お一人お一人に最適の検査・診断とそれに合わせた治療を、皆様により良い形でそれぞれ選んでいく必要があります。
 その1つの手段として、当院では「気管支鏡検査(気管支ファイバースコープ)」にも力を入れています。気管支鏡検査とは、空気の吸い込む通り道伝いに、内視鏡のカメラを進めていく気管支・肺の検査のことです。内視鏡といえば胃カメラ・大腸カメラが有名ですが、その肺バージョンとなります。全ての呼吸器疾患で必要なわけではありませんが、特に肺がん、間質性肺炎や原因不明の感染症などで有用な検査で、他の検査では代わりにならないことも度々ある重要な検査方法です。

 

 

 今まではどうしても当院の機材で検査困難なケースもありましたが、現在、その気管支鏡検査をグレードアップして、超音波の検査を組み合わせたものでさらに精度を高めていけたらと日々研鑽を積んでいます。是非、当院にお任せください!
 長くなりましたが、最終的に辿り着ける診断は様々な候補がありますが、その多くの病気では、最初の頃は咳や熱など風邪のような症状から始まることもあります。「長引く風邪が…」「原因不明の咳がずっとなくならない」など、ちょっとしたことでも良いですので、お気軽に内科外来までお越し下さい。

2023年05月01日

透析センター開設50周年を迎えて

(この記事は2023年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 部長 透析センター長
小山 正樹



 

 当院の透析医療は1972年(昭和47年)7月、3名の透析患者さんの維持透析からはじまりました。その後医療機器の開発、設備拡充、スタッフ育成などにより現在は約370名の患者さんの透析治療にあたっております。おかげをもちまして昨年は透析センター開設50年を迎えました。

 

 血液透析とは腎不全状態にある患者さんの血液を体外に出し、人工腎臓を用いて血液をきれいにする治療です。当院で透析が開始された頃はコイル型の人工腎臓を使用しており、洗濯槽ほどの大きさの装置で膜が破れ血液が漏れること(リーク)がしばしばあったそうです。その後現在も使用されている中空糸型ダイアライザーが登場し膜リークが激減しました。透析液は清浄化が改良されオンラインHDFと呼ばれる治療法では、通常で使用される透析液を補充液として用いられるまでになりました。

 それから合併症の一つに手根管症候群があり、治療法としては手根管開放術が主流だったのですが、その原因物質であるβ2-mg を吸着する治療法としてリクセルという医療材料が1996年に発売されたこと、先ほどのHDFの普及と透析液清浄化により手根管症候群を呈する患者さんが激減しました。腎性貧血については輸血が第一選択だったため輸血によるC 型肝炎を罹患する患者さんが増加したのですが、1990 年に登場した造血剤によりC 型肝炎患者が減少しました。またインターフェロンの登場、抗ウイルス薬の開発によりC 型肝炎はほぼ完治できるまでになりました。

 施設としては、患者数増加にあわせて旧本館 3 階に第 1透析室、同 2 階に第2透析室、同4階に第3透析室を設置していましたが、2007年本館増改築に伴い本館2階に115床のワンフロア化をオープン(現在125床)し、利便性、効率性、安全性が向上いたしました。本館 3 階には病棟からベッドのままで搬送可能な入院透析 8 床を設置し患者さんおよびスタッフの負担軽減を実現しました。ベッド間隔も広くなり快適性も向上しました。

 また2010年には以前から懸念していた避難訓練を新型コロナの感染が広まる前の年まで毎年開催してきました。透析治療としては保険収載されている治療全域を実施し、循環動態の不安定な患者さんへの持続的血液透析や潰瘍性大腸炎の治療法である顆粒球除去療法などの特殊症例にも対応しております。また透析通信システムを採用し、コンピュータを活用した透析管理を実施しております。内シャントについては当院にて作成し、狭窄や閉塞時などの血管拡張術にも対応しております。また当院では慢性腎臓病とよばれる慢性に悪化する腎臓病にも積極的に介入を行い、CKD外来の開設、CKD教育入院などを実施し、永く腎臓 が機能できるようサポートを行っております。腹膜透析については隔週木曜にC APD 外来を開設、腎臓移植については他施設と提携しております。

 当院は内科をはじめ外科・整形外科などを有する総合病院で、透析患者さんの透析以外の治療においても早期に対応可能となっております。透析医療は医師、看護師、臨床工学技士などの医療専門職 が協力し合うことが必要です。これからもより安全で安心して透析を受けていただけるように 努力邁進いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

2023年03月01日

「前立腺肥大症に対する」ツリウムレーザー 前立腺蒸散術(ThuVAP)

(この記事は2023年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

副院長 腎臓・泌尿器科
今田 直樹



 

 2020-2022年、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が医療界に多大な影響を及ぼしました。特に良性疾患の手術に対しては抑制的な方向であったと思います。2019 年に認可を受けた前立腺肥大症の新しい治療レーザー機 Quanta Cyber TMを同年7月に日本第 3号機として導入いたしました。さあこれからという時にコロナ禍に巻き込まれました。

 

 ThuVAPは2017年のヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでは既に推奨グレードAと認められている治療法で、2017年日本泌尿器科ガイドラインでもBに認められています。次回の改定では恐らくA評価になると思われます。日本においてもホルミウムレーザー(A評価)、グリーンライトレーザー(A評価)、半導体レーザー(C1評価)に次いで徐々に増加しています。Quanta Cyber TMは2022 年末までに日本で 34 施設に、一昨年には東京慈恵会医科大学病院、昨年には東京医科歯科大学病院に導入され、高度医療施設にも評価されつつあります。

 さて、前立腺は外腺と内腺で構成されており、前立腺肥大症とは内腺が肥大することです。ミカンを想像してください。外腺は皮の部分で、肥大した内腺が実の部分です。正常な前立腺はスダチぐらいの大きさでしょうか。尿道がその真ん中を縦に貫通していて、肥大症になれば尿道が圧迫され排尿困難などの症状が出現するのです。前立腺肥大症の手術の目的は肥大した内腺を取り除くことです。開腹手術では、皮を切って実を丸ごと取り出すイメージです。夏ミカンぐらいに成長した肥大症が適応です。多くは通常の経尿道的前立腺手術で対応できます。尿道から切除鏡を挿入し、電気メスで少しずつ切除していきます(上右図)。この手術もとても良い手術ですが、近年、前立腺手術に電気メスに代わってレーザーを使って蒸散治療する方法が普及しつつあります。

 前立腺のレーザー治療の特徴は、術中および術後の出血リスクが非常に低く、抗血栓療法中の方(血液サラサラ薬内服中の方)にも行なうことが可能で、術後の痛みが少なく、回復も早く、術後の尿道カテーテルの留置期間も短くて早期退院が可能となります。

 当院が導入したツリウムレーザー(下写真)の特徴は、水分子(全ての生体組織に存在する)に対する吸収率が高く、蒸散効率が手術当初から最期まで落ちることなく一定に保たれます。軟部組織を迅速に焼灼/切断しつつもレーザービームの組織への深達度は 0.1-0.2mmと限定的で、周辺組織に対する影響が少なくて安全です。また他のレーザーと比較して最高出力200Wのハイパワーであり、全サイズの前立腺肥大症に有効であることがヨーロッパ泌尿器科ガイドラインでも証明され治療適応範囲の幅が拡大し、次いで術後合併症の発生率が低いことも報告されています。
内服治療だけでは十分に症状が改善しない方、内服継続をしたくない方、手術を受けたいが入院期間の問題で手術をためらっている方には非常に適している治療法ではないでしょうか。いつでもお気軽にご相談下さい。

2023年03月01日

結核 日本はようやく「低まん延国」に仲間入り

(この記事は2022年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

呼吸器内科 部長
上田 幹雄


 

  厚生労働省が2022年8月30日に発表した調査結果によると、2021年の国内の結核新規患者数は前年比9.6%減の1万1519人。人ロ10万人当たりに換算した罹患率は9.2と前年を0.9下回り、世界保健機関(WHO)が定めた低まん延の基準を満たしました。

 

 WHOは、結核まん延の程度を「高・中・低」の3つに分類しています。結核罹患率が人ロ10万人当たり10未満が低まん延国、10以上100未満が中まん延国、100以上が高まん延国と定義しています。結核は、明治から昭和2 0年ごろまでは、「国民病」「不治の病」などと恐れられた感染症でしたが、特効薬となる抗生物質「ストレプトマイシン」の発見や栄養状態・生活環境の改善などにより急激に減少してきました1970年代には人10万人当たり100以下となり、「中まん延国」になりました。この時期の減少ペースを維持できれば、2000年までには「低まん延国」に入る計算でしたが、その後減少するペースが鈍ってしまいました。(1997年には逆に増加しました)。減少が鈍化した理由としては、結核がまん延していた時期に幼少・青年期を過ごし感染していた人々の高齢化(結核は、感染してから発病するまでの期間、いわゆる潜伏期が長いため)、青年・壮年層での新たな感染、社会的関心の低下(受診の遅れ・診断の遅れ )、都市化に伴う感染機会の上昇と社会的ハイリスクグループの増加、医学的ハイリスク集団の増加などが考えられています。しかし、乳児へのBCG接種や健診の充実・拡大など地道な取り組みが功を奏し、予想より20年くらい遅れましたが、ようやく「低まん延国」に仲間入りすることができました。

 「低まん延国」にはなりましたが、同じ低まん延国である欧米との差はまだかなりあります。米国では1970年代後半に結核が人口10万対10の低まん延に近づくにつれ、もう結核は十分コントロールされたという認識が一般化し、予算が削減され公衆衛生的対応が手抜きになりました。その結果1980年代後半に横ばいから逆転上昇しました。そこで国が新たに「結核根絶」の戦略を練り、強力な対策を推し進めることで再び罹患率を減少させることに成功し、今では先進諸国の中で最先端の低まん延を維持しています。米国は、当たり前の対策をしっかり続けることが重要で、自国のような過ちを繰り返さないようにと他の国に呼びかけています。

 日本では、以前と比べて減ったとはいえ、まだ1年間に1万人以上新たに発病しています。決して過去の病気ではありません。米国の歴史を学び、結核を軽視しない努力が必要です。1人ひとりが結核についての正しい知識をもち、早期発見だけでなく、予防も心がけることが大切です。


2022年11月01日

全腎的医療をモットーに多職種とのチーム医療

(この記事は2022年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 部長 透析センター長
小山 正樹



 

 全人的医療とは、一定の部位や疾患に限定せず、 患者さんの心理や社会的側面なども含めて幅広く考慮しながら、個々人に合った総合的な疾病予防や診断・治療を行う医療をいい、西陣病院でもこの理念の元に全スタッフが診療に従事しております。対しまして、全腎的医療とは、腎臓・尿路に関するあらゆる疾患に診断から治療まで全ての疾患を診療していく医療です。診療する臓器によっては、診断が内科、手術は外科と一体化していないことが多く、腎臓領域でも疾患によっては腎臓内科、泌尿器科にとその都度振り分けされることがあります。

 

 例えば、腎炎、腎不全は腎臓内科、腎結石、尿管結石、腎癌は泌尿器科と分かれておりますし、血尿では腎炎は腎臓内科、腫瘍・結石は泌尿器科と最初に受診した科から別の科に振り分けられることがあります。透析領域でも、日常の透析は自院で行っても、外科的治療を要する透析シャント作成は他の病院、PTA (経皮的血管拡張術)も他の病院にと患者さんの手間になることが少なからずあります。

 当院の腎臓・泌尿器科は、他の病院ではない一診療科で腎臓・尿路に関する全ての治療を行っております。尿を作る腎臓、尿を排泄する尿路、尿が作れなくなったら腎代替療法といったすべての腎臓・尿路系疾患を内科領域・外科領域を共に診ていく全腎的医療(Total Kidney Therapy)をモットーに治療しております。当院は、日本泌尿器科学会教育施設、日本腎臓学会教育施設、日本透析医学会認定施設に認定されており、スタッフはそれぞれの専門医および指導医を有しております。

 高齢化に伴い、慢性腎臓病(CKD)の患者さんは年々増加しております。慢性腎臓病とは自覚症状がないままに腎臓の機能がだんだん低下していく病気です。現在、慢性腎臓病が進行し、透析が必要になる腎不全患者さんは30万人を超えております。その予備軍である慢性腎臓病患者さんは成人人口の13%、1300万人と推定されており、国民病と言えるほど頻度が高い疾患であります。早期からの発見と腎不全の進行抑制、透析の導入を回避するために、当院では慢性腎臓病外来を設けており、慢性腎臓病教育入院なども行っております。看護師、管理栄養士、臨床工学技士、薬剤師、理学療法士、社会福祉士などの医療スタッフによる個別指導を行っており、多職種によるチーム医療を心掛けております。

 2021年からは、透析認定看護師および腎代替療法指導士による慢性腎臓病看護外来を開設しております。体調の確認、血圧、体重管理などの日常生活指導、管理栄養士による栄養指導のサポート、内服薬の服用・管理指導、検査データの説明、腎機能が悪くなった時の腎代替療法(血液透析、腹膜透析など)の説明などを医師のみでは不十分なところを、時間をかけて信頼性を築きながら診療・指導しております。

 検診で検尿異常を指摘された、腎機能が悪くなっている、尿が出にくい、尿漏れで困っているなどの腎臓・尿に関するお悩み事がございましたら、腎臓・泌尿器科にご相談していただけたらと思います。

2022年11月01日