西陣だより

転倒して痛い時は迷わず整形外科へ

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医員
中村 恵



 日本は超高齢化社会となり、転倒し整形外科を受診される方が増えています。骨折は場合によっては生活レベルを大きく落とす可能性があり、適切な治療が必要です。今回は生活レベル、骨折の診断および治療の流れについて簡単に説明させていただきます。

 

 2020年の日本人の平均寿命は男性が 81.64歳、女性が87.74歳と年々更新しており、超高齢化社会となっている現状です。平均寿命が伸び続けている中で重要であるのが日常生活動作( Activities of Daily Living 以下ADL)です。ADLには基本的日常生活動作( basic ADL: BADL)と手段的日常生活動作( instrumental ADL : IADL )があり、特にBADLは日常生活における基本的な着替え、食事、トイレ、移動、風呂・整容といった動作のことを指し、生活レベルに大きく関わってきます。整形外科的にADLの低下の主な原因として骨折があります。超高齢化社会による骨粗しょう症の増加、また筋力低下による転倒などの外傷の増加により骨折は高齢者でよくみられる疾患となっています。人の体には約200本の骨があり、骨折をすると身体的な機能の低下につながり、ADLの低下につながります。骨折は骨折部位、骨折の形状、年齢、性別、生活背景により治療方針が異なり、その患者様に適した治療が必要です。骨折の診断の流れとしては、まずは問診、痛い部位の診察、それに応じた単純レントゲン検査をメインとした画像検査を施行致します。明らかな骨折があった場合は、それに応じて必要であればCT・MRI検査などのさらに詳しい検査を施行致します。単純レントゲンではわからない骨折もあるため、痛みや腫れが強く疑わしい場合は同様にさらなる精査を行います。検査が終わると、治療方針を決定します。骨折の治療には手術による治療、手術をしない保存療法に大きく分けることができ、手術が望ましい場合はそれに向けた準備を、保存療法が望ましい場合は三角巾、ギプス・コルセットなどを装着し定期的に外来でフォロー致します。 手術を選択する理由としては、転位(ずれ)が大きく骨が癒合せず疼痛が持続する可能性が高い寝たきりにならないよう早期離床および歩行訓練が望ましいもの(大腿骨の骨折など、③痛みを軽減するため、などが挙げられます。

 ただ、私たちが簡単に手術といっても、患者様の立場からすると手術は非常に怖いものであることが多く、しっかりと患者様の立場にたってご理解いただけるような説明をすることを心掛けております。骨折は診断が遅れると治療が困難になることもあり、ADLの低下を避けるためにも早期診断、早期治療が望ましいです。ですので、怪我をして痛い、腫れていることがあれば迷わず整形外科を受診してください。そして日常生活レベルを落とさないよう一緒に治療していきましょう。

 

 

 

 

2022年07月01日

高齢者の糖尿病短期入院について

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病内科 部長
矢野 美保


  糖尿病の方は、経過や糖尿病の状態により、合併症や併発症を認めることが多いとされています。普段から自分の状態を知ることも大切ですね。当院では、65歳以上の方を対象に高齢者特有の合併症も含めて評価する短期入院を行っていますのでぜひ御利用ください。糖尿病の治療の目標は糖尿病のない人と変わらない寿命と生活の質の実現を目指すことと言われています。糖尿病があると、ない方に比べて、網膜症・腎症・神経症・動脈硬化などの合併症以外にも併発症としての骨粗鬆症・認知症なども多いと報告されています。一方で、治療の進歩に伴って、以前より糖尿病の合併症の発症が抑制されているとの報告もあります。日常から自分の合併症の状態を確認できればよいですね。西陣病院では、2週間の糖尿病教育入院以外に65歳以上の方を対象とした短期(2泊3日)の合併症評価の入院を行っています。

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは骨の量(骨量)の減少や骨の性質(骨質)の悪化により、骨が弱くなり骨折しやすくなる病気です。糖尿病では骨密度だけでなく、骨質が悪化していると言われています。当院ではDXA(デキサ)法というX線を用いる方法で、骨密度だけではなく骨質も評価出来ます。

サルコペニア

サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指します。糖尿病ではサルコペニアになりやすく、サルコペニアでは糖尿病も悪化しやすいと言われています。体組成の検査で筋肉量を測定し、握力や歩行速度の計測で評価出来ます。

認知症

糖尿病ではアルツハイマー型認知症や脳血管型認知症になりやすいと報告されています。アルツハイマー型認知症は大脳の表面と海馬(記憶をつかさどる部位 )の萎縮を認めます。脳病変の有無はMRI、脳の血管の状態はMRA、海馬の萎縮はVSRAD(ブイエスラド)という検査方法で評価出来ます。

高齢者の短期入院で行う項目

● 一般検査(血液・尿検査・胸部X線・心電図)
● 骨密度
● 頭部MRI・MRA・VSRAD
● 頸動脈エコー・心エコー・ABI(動脈硬化・心臓の機能の評価)
● 腹部CT(膵臓や肝臓などの評価)
● InBody(インピーダンス法による筋肉量や体脂肪等の体組成の測定)
● 看護師による認知機能の簡易評価・嚥下機能 の確認
● 薬剤師による服薬確認・指導
● 管理栄養士による食事内容確認・簡易型自記式・食事歴法質問票(BDHQ)による食習慣の分析や、その改善に向けた具体的なアドバイス
● 理学療法士による筋力などの評価

※短期入院のため、血糖調節は行いません。

入院の結果をふまえて、なにか治療が必要な場合は退院後、主治医による処方の追加や必要時他科に相談して治療法を考えます。ぜひ、短期入院を活用してみて下さい。御希望の方は糖尿病内科にお問い合わせ下さい。

2022年07月01日

日本列島 ”食” めぐり「群馬県」

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

栄養科 管理栄養士 井尻  柊人

全国各地の特色ある料理や名物をご紹介していきます

 

おっきりこみ

 群馬県を代表とする郷土料理となっており、幅広の生麺を、旬の野菜やきのこなどと一緒に 煮込んだ料理です。群馬県は、年間を通して晴れの日が多い気候と水はけのよい土壌に恵まれているため、小麦栽培が盛んで、小麦から作られる「粉もの食」が発展してきました。米が貴重だった時代には、小麦を使って毎日夕食は麺類だったという家も多かったようです。

(1人分)エネルギー 280kcal/たんぱく質21g/塩分1.8g

材料 (2人分) 作り方

<平打ちうどん>
●中力粉・・200g
●水(寒い時期はぬるま湯で) 90cc

<調味料>
●サラダ油(具材炒め用) 大さじ1
●だし汁・・ 800cc
●濃口しょうゆ・・ 小さじ1
●みそ・・ 40g

<具材>
●豚肉・・ 50g
●舞茸・・ 30g
●ごぼう・・ 1/4本
●大根・・ 50g
●人参・・ 15g
●白菜・・ 70g
●油揚げ・・1/4枚

①小麦粉に水を加えながら混ぜこねる。(そぼろ状になってまとまるまで)
②ビニール袋に入れて足で踏む。
③打ち粉をしながら麺棒で伸ばして包丁で切り、ほぐしておく。①~③は市販のうどんでも大丈夫です。
④食べやすい大きさに野菜類と油揚げを切る。なべに油をひき、舞茸を炒め良い香りがしてきたら、だし汁、野菜類、油揚げを入れ煮る。
➄15分程煮たら豚肉を入れる。
⑥調味料を入れて味を調え、うどんを入れる。
⑦5分程煮たら出来上がり。

 

2022年05月01日

ポリファーマシーが社会問題に

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

薬剤部  薬剤師  楠 斐未

ポリファーマシー(Poli+pharmacy)とは?

多剤併用(多くの種類の薬を服用している)を意味しますが、単に多剤併用を指すのではありません。一般的に5~6剤以上を言いますが、何剤以上でポリファーマシーであるという定義ではなく、必要以上にたくさんの種類の薬が処方されたことによって、害を有する場合がある状態を言います。

なぜ薬が増えるのか?

加齢に伴って基礎疾患(糖尿病、高血圧、腰痛など)が増え、複数の医療機関に通院する方が増えるため、その医療機関ごとに薬が処方され、通う病院の数だけ薬が増えていく結果になります。

ポリファーマシーの問題点

それぞれの医師から処方された薬を飲んでいて、その種類が多いほど、飲み合わせにより薬が効きすぎる、あるいは効果を打ち消しあってしまう可能性が高まります。高齢になるほど肝臓や腎臓の薬を代謝・排泄する機能が低下し、薬が体内に長く留まるようになるため、薬の副作用リスクも高まり、そして、必要以上にお金がかかります。

ポリファーマシーを予防するために

① かかりつけ医師やかかりつけ薬局をもちましょう。
② お薬手帳を一冊にまとめて活用しましょう。
③ 服用している薬について医師や薬剤師に相談しましょう。
 
 ※ 医師や薬剤師等の医療スタッフとお薬手帳の情報を共有することで、飲み合わせや同じ効果をもつ薬剤の重複を防ぐことが出来ます。そのためにもお薬手帳を一冊にまとめること、かかりつけをもつことが重要です

注意

飲んでいる薬が多いからといって、勝手に薬をやめたり減らしたりするのはいけません。自己中断すると症状が悪化することがあります。必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

2022年05月01日

最先端の内視鏡システムを導入しました

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科部長
消化器内視鏡センター長
稲垣 恭和

消化器内視鏡センターでは 2022年1月より内視鏡システムを全てオリンパス社製の最上位機種であるEVIS X1に更新し、最新のスコープも導入致しました。EVIS X1は世界初の5LED 光源を搭載しており、EDOF(Extended Depth of Field:被写界深度拡大)などの最新観察技術により、より明るく鮮明な画質での内視鏡観察が可能となっております。また、オリンパス社独自の NBI/RDI/TXI などの特殊光観察技術により、通常では発見できない微細病変の発見や、より安全で確実な内視鏡治療が可能となりました。当センターでは今後もチーム一丸となってより良質な医療を提供させて頂けるよう努力してまいります。

 

                             

2022年05月01日

尿路結石について

(この記事は2022年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
岩本 鴻太朗



 

疫学

日本人では上部尿路結石が95%以上を占めます。50年前と比べると罹患率は3.2倍に増えています。男性の6.5人に1人、女性の13.2人に1人が罹るとされ男性に多い疾患ですが、直近10年で女性の増加は顕著です。好発年齢は男性50代、女性60代です。

成分

結石成分は、男女ともカルシウム結石が約90%を占めます。男性は尿酸結石、女性は感染結石が続きます。

症状

結石は存在するだけでは特に症状を認めず、尿管に詰まることで激しい片側性の疼痛を引き起こすのが特徴的です。尿の流れがせき止められ腎臓が腫大した水腎症の状態になることが痛みの原因です。痛みとともに吐き気や嘔吐を起こすこともあります。また血尿もしばしばみられます。結石の位置によっては頻尿や排尿時痛、排尿困難感などの症状を伴うこともあります。

検査

尿路結石の診断にはまずは尿検査や超音波検査、レントゲン検査などの低侵襲な検査を行います。超音波検査では水腎症の確認ができます。レントゲン検査でほとんどの結石は確認できますが一部の結石は確認できないことがあります。CT検査ではすべての結石が確認でき、また急な疼痛を来す結石以外の疾患の検索にも有用です。

治療

1㎝未満の結石は自然排石が期待できます。1日2L程度の水分摂取を推奨し、必要に応じて内服薬の処方をします。1ヶ月以上排石しない場合や1㎝以上の結石の場合には積極的治療を検討します。以下に挙げた治療が主に行われますが結石があまりにも大きい場合には経皮的結石破砕術(PNL)や腹腔鏡下切石術が行われる場合もあります。いずれの治療もメリット・デメリットがあり、患者さんの背景や適応を十分に考えたうえで治療法を相談いたします。

体外衝撃波結石破砕術(ESWL
レントゲンで結石を確認しながら、体外で発生させた衝撃波を照射し結石を破砕する治療です。1回の治療は約1時間です。当院では日帰りで施行でき、基本的に大きな合併症は少なく患者さんへ
の負担が少ない治療となっています。レントゲンに写らない結石には施行できず、また結石によっては複数回の治療を必要とする可能性もあります。

■ 経尿道的結石破砕術(TUL
尿道から細い内視鏡を挿入し結石を直接見ながらレーザーで破砕します。入院で全身麻酔もしくは腰椎麻酔をかけて行い、入院期間は4~5日ほどです。破砕効果はESWLよりも大きいとされます。一方で尿管の損傷や術後の感染症などの合併症が発生する可能性があります。当院ではレーザーとしてQuanta Litho Evoという最新の機械を導入し治療を行っております。

再発予防

約半数が再発すると言われております。再発予防の基本は水分摂取であり、1日2L以上の水分摂取が必要とされています。最も頻度の高いシュウ酸カルシウム結石では、シュウ酸を多く含むタケノコやほうれん草、紅茶などの摂取を抑えることが推奨されます。またシュウ酸はカルシウムと同時に摂取するとシュウ酸の体内への吸収が抑制されます。

まとめ

尿路結石の患者さんは今後も増加が予想されます。再発予防と適切な治療の選択が重要です。気になる方は一度腎臓・泌尿器科を受診してください。

2022年05月01日

日本列島 ”食” めぐり「岐阜県」

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

栄養科 管理栄養士 今井 文恵

全国各地の特色ある料理や名物をご紹介していきます

 

鶏ちゃん

 鶏ちゃん(けいちゃん)とは、岐阜県の郷土料理の一つで、鶏肉に醤油や味噌をベースにニンニクや生姜などで下味を付け、キャベツやもやしなどの野菜と共に鉄板で炒めた料理のことです。戦中から戦後、下呂や郡上の田舎で、卵を産まなくなった採卵用のニワトリを食べたことが始まりと言われています。食肉が手に入りにくかった当時、「鶏ちゃん」は貴重な料理であり、盆や正月、親族の集まりや来客があるときなど、特別な時に振る舞われたそうです。

(1人分)エネルギー 329kcal/たんぱく質21g/塩分2.1g

材料 (2人分) 作り方

●鶏もも肉・・200g
●キャベツ・・ 150g
●もやし・・ 100g
●しいたけ・・ 4個
●サラダ油・・ 大さじ1
●小ねぎ(小口切り)・・ 適量

<みそだれ>
●料理酒・・ 大さじ2
●みそ・・ 大さじ1
●しょうゆ・・ 小さじ1
●砂糖・・ 小さじ1
●すりおろしニンニク・・ 小さじ1

① しいたけは軸を切り落とし、薄切りにする。
② キャベツはざく切り、もやしはさっと水で洗ってから水気を切っておく。
③ 鶏もも肉は一口大に切る。
④ ボウルにみそだれの材料を入れ、混ぜ合わせる。
➄ ④に③を加えて揉み込み、冷蔵庫で1時間ほど味がなじむまで浸ける。
⑥ 中火で熱したフライパンにサラダ油をひき、➄、②を入れて5分程焼く。
⑦ 鶏もも肉に火が通ったら①を加え、中火で炒め合わせ、キャベツがしんなりしたら火から下ろす。
⑧ 器に盛り付けて小ねぎを散らして完成。

 

2022年03月01日

食物アレルギーとお薬

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

薬剤部  薬剤師 植村 有加

お薬には、食物に由来する成分が含まれていることがあり、食物アレルギーがある方は注意が必要です。
今回は、食物アレルギーとお薬の関係をご紹介します。

食物アレルギーとは?

特定の食物を摂取することにより免疫システム(体が物質を排除する機能)が過敏に働き、体に不利益な症状が現れることです。

不利益な症状とは?

皮膚症状
→ 蕁麻疹、かゆみ、赤み

呼吸器症状
→ せき、呼吸困難

粘膜症状
→ 唇やまぶたの腫れ、鼻水

消化器症状
→ 嘔吐・吐き気、下痢

※ 血圧の低下や意識障害などを引き起こし、場合によっては生命を脅かす危険な状態(アナフィラキシー)になることもあります

食物アレルギーがある方が、服用できない医薬品のご紹介

鶏卵由来の成分を含む医薬品(塩化リゾチームや卵黄レシチンを含む
● 市販のかぜ薬や鎮咳去痰薬(コンタック・ルル・パブロンなど)
● 市販の目薬(スマイル40など)
● 手術時に使用する鎮静剤(プロポフォールなど)
● インフルエンザワクチン

 

牛乳由来の成分を含む医薬品(カゼインや乳糖を含む)
● 下痢止めのタンニン酸アルブミン製剤
● 整腸剤(ラックビー、耐性乳酸菌散など)
● 食事がとれない時の栄養剤(エンシュア、ラコールなど)
● 肝臓病に用いる栄養剤(アミノレバンEN)
● インフルエンザ治療薬(イナビル、リレンザ)
● 喘息治療薬(シムビコート、レルベアなどの吸入薬)

 

その他
ゼラチンは、医薬品の添加物やカプセルの原材料として非常に多く使用されています。

 

※ 今回は、紙面の都合上、全てのお薬を掲載していません。必ず、お薬を服用する前や手術などを受ける時には、食物アレルギーについて、医師や薬剤師に伝えてください。食物などによるアレルギーを起こした経験があったり、起こしたりした時には、「お薬手帳」に「アレルギー歴」を記載し、医師や薬剤師に見せてください。ドラッグストアなどでお薬を購入される際にも、心配な点があれば、薬剤師にご相談ください

2022年03月01日

当院の認知症看護特定認定看護師を紹介します

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

認知症看護特定認定看護師


認知症看護
特定認定看護師
草川 千恵




  2021年に、認知症看護特定認定看護師の資格を取得しました。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気となり、2025年には65歳以上の高齢者5人に1人が認知症になると推計されています。

 

 認知症の方が入院すると、次のような苦痛や困難を体験されます。入院に伴い、住み慣れた自宅から病院へと物理的環境が変わり、家族から医療者へと社会的環境も変化してしまいます。それに、病気の治療のため医療処置が新たに加わります。認知症の方は一般の高齢者に比べて環境の変化に弱く、入院に伴う様々な環境の変化にさらされることにより、身体的・精神的に負担となり、入院中に身体機能の低下や認知症の進行を招くリスクがあります。その上、認知症の方は記憶障害や言語障害などにより、病気の症状や処置による苦痛をうまく医療者へ伝えることができないのです。
 認知症看護特定認定看護師として、入院に伴う環境の変化で苦痛や困難を抱えている認知症の方が、安全に治療を受けることができ、入院後も自分らしく過ごせるように、そして早期に退院できることを目指して介入を行っています。具体的には、無機質な病床を少しでも住み慣れた自宅に近づけるようなレイアウトにしたり、点滴や治療に必要なチューブ類が気にならないような工夫を行ったりしています。そして、苦痛をうまく訴えられない認知症の方の表情やしぐさを捉え、全身の観察を行い、隠された身体異常を察知してケアへ繋げています。そのためにも、スタッフに対する指導や教育も重要な特定認定看護師の役割の一つであり、院内で認知症に関する研修会を実施したり、近隣の看護専門学校へ講義を行ったりもしています。
 認知症の方が「地域で自分らしく暮らすことができる」よう、活動していきたいと思いますので、認知症に関する困りごとがありましたら、いつでもご相談ください

 

施設や医院で働く方々に向けた出張研修会などを行いますので、s.saeki@nishijinhp.com(佐伯)のメールか、地域医療連携室に是非ご相談ください。お待ちしております。

<出張研修会内容の例>

●感染管理認定看護師
「新型コロナウイルス感染対策について」
「感染性吐物・排泄物処理方法について」

●透析看護認定看護師
「腎臓の悪化に気づくポイント」

●皮膚・排泄ケア特定認定看護師
「褥瘡の予防・治療ケア」
「高齢者の失禁管理」
  症例検討など

この他にもご希望がございましたら、ご相談ください。

2022年03月01日

心不全について

(この記事は2022年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 主任部長
中森 診


 
 
 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。心不全の原因は狭心症や心筋梗塞のほか、心臓の筋肉に障害が起こる心筋症、心臓の弁に障害のある心臓弁膜症などですが、高血圧の人は心臓肥大を生じて心不全になりやすいと言われています。日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では、心不全にA~Dの4つのステージが定められています。

 

心不全について

ステージA
心不全の危険因子を抱えている段階で、糖尿病や高血圧など心不全悪化の原因になる危険因子を抱えているものの、心臓の働きは正常で心不全症状もありません。

ステージB 
心臓の働き異常(心臓肥大、心拍出量低下)などが出てきた段階で、心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、不整脈などを発症していますが、まだこの段階では心不全症状はありません。

ステージC
心臓の働きの異常により、息切れ、むくみ、疲れやすさなどの症状が現れた時で、心臓の働きの異常に応じて治療薬が異なります。

ステージD
心不全が進行して治療が難しくなった段階です。

 心不全の症状には、収縮機能(血液を送り出す機能)が低下して十分な血液を送り出せないことから起こる症状と、拡張機能(全身の血液が心臓に戻る機能)が低下して血液がうっ滞することによって起こる症状があります。ポンプ機能低下による症状は、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞による症状は、息切れ、呼吸困難、むくみなどがあります。心不全には、急性心筋梗塞などにより急激に心臓の働きが悪くなり、命の危機にさらされることもある「急性心不全」と、徐々に進行して心不全の状態がずっと続く「慢性心不全」があり、慢性心不全は急に悪くなって急性心不全となることもあり、入院のたびに全身状態が悪化していきます。
 最初のうちは、階段や坂道などを登ったときにだけ息が切れる程度ですが、進行すると少し身体を動かすだけでも息苦しくなります。さらに悪化すると、じっとしていても症状が出るようになり、夜中に寝ている時でも咳や息苦しさで寝られなくなります。最近、収縮機能が正常の心不全(拡張不全)が多いことがわかってきました。静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、有効な治療法が限られます。また、高齢者では自覚症状が現れにくく、息切れがあっても、「歳だから仕方がない」などと見過ごし易いため、放置したまま悪化してしまい、夜中に呼吸困難を起こして救急搬入される患者さんも少なくありません。

 息切れや動悸は、狭心症や不整脈など、ほかの心臓の病気が隠れていることもありますので、今までできていた動作ができなくなった、急に体重が増えた、動悸や息切れを感じるときには、心不全の可能性がありますので早めにかかりつけ医に相談して下さい

2022年03月01日